欧州蹴球文化探訪 ベルギーの光と闇 第十九話 法曹界の風雲児、リエージュから現る

 この集団訴訟、興味深いのは既にFFPによる処分を受けたマンチェスター・シティやパリ・SGサンジェルマンのサポーターグループをデュポンが原告側に加えたことである。
2011年施行されたFFP。支出超過はご法度だが、高額の収入があれば良いのだからバルサ、レアル、バリエルンなど年商5億ユーロレベルには対岸の火事。大富豪オーナーの私財に釘を刺されたマンチェスター・シティとPSGが第一回の審査の結果、ペナルティを受けている。
 ここで注目すべきは2003年アブラモビッチの私財で強化されたブルーズが、11-12シーズンの欧州制覇以降は既に黒字経営に転じており、御咎めなしなのだ。
ベルギー代表のロメロ・ルカクをエバートンに3500万ユーロで売却して、同スタイルのフランス代表ロイク・レミを1300万ユーロで買い取るなど、強かな健全経営を心掛けている。つまり初期投資を終え既に成りあがったチェルシーの後を追い、同じ道を歩む途中で障害を設けられ、阻まれたのがシティとPSGである。

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第七話にてパリSGとレアル・マドリーのUEFAユースリーグ観戦についてふれたが、このカード準決勝でも対戦。リベンジを狙うレアルをPSGが返り討ちに。
そもそもこの連載は昨秋第一話で、バルサの’17よりもアンデルレヒトに目を奪われた六年前のエピソードから始まった。国境を越え人材集め連覇を狙うチェルシー、フランスのPSG、スペインのレアルも育成には定評があるが今年はレベルが高いと聞いてサンジェルマン・アンレーにまで足を伸ばした。
欧州各国を代表するビッククラブが並ぶ四強に、バルサを破りアンデルレヒトが食い込んだ。残念ながらアヤックスを破った王者チェルシーの前にファイナル目前で力尽きた。

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ベルギーだけでなく欧州各国のメディアが昨年12月15日をデュポンの勝訴から20周年の記念日としてボスマンのコメントを掲載していた。
当時、保有権と移籍金が撤廃されれば、選手を育成するクラブが消滅するのではと懸念された。
しかし長期間の契約を結ぶことで、移籍先のクラブに残った契約を買い取ってもらう方法が考案され実質的に移籍金は発生している。一方選手も、フル―トランスファーを視野に入れ、ハードルを下げる目的で長期契約を敬遠するといった“駆け引き”を用いるようになると、《交渉代理人》の出番が増え現在に至る。

若年層からの育成に注力するアヤックスやスポルティング、トップチームでの短期育成に手腕を見せるセヴィージャ。そして世界各国から大物を買い集めるビック・クラブも下部組織にも投資、人材は中堅国やローカルクラブに流れ底辺から欧州フットボールを支えている。
状況が変われば適応するために新たなアイディアが生まれる。『金』がなければ知恵を出す。知恵のないものは生き延びることはできない。隣国から侵略される脅威にさらされてきた歴史が育んだ欧州の強かさと逞しさがフットボールシーンには息衝いている。