その典型例が後半20分のナスリのゴールだった。ナスリのシュート技術も見事だが、人数で上回っていたローマ守備陣が誰もナスリに寄せていなかったのは大問題だ。ナスリが完璧な態勢でシュートを撃つ事が出来たのも、ナスリにプレスがかかっていなかったからだ。
ぜひハイライトか何かで確認していただきたいのだが、ナスリはボールを保持してから3~4秒ほどフリーの時間帯があった。これはサッカーの中ではかなり長い時間だ。それも 周囲には4名ものローマ守備陣がおり、囲んでボールを奪う事すら可能だったのだから。
ミルナーが斜めにフリーランをかけてマイコンの後方を突いた動きも良かったが、それでもこの攻撃に絡んでいるのはナスリ、ミルナー、そして最前線で待っていたジェコの3名のみ。ナスリにフリーでミドルシュートを撃たれるような場面では無かった。
このシーンだけではない。この試合を通して、ナスリには幾度もボールキープを許している。ナスリはサッカー界でもトップレベルのテクニシャンだが、ローマほどの強豪があまりにお粗末な守備だった。マイコンの寄せは90分通して甘かったし、チーム全体のプレスも中途半端だった。
攻撃は最大の防御と評されるように、あの場面でもナスリがシュートを撃ったからゴールが生まれた。撃たれる前に囲んで奪っておくか、あるいは前を向かせない事でゴールには繋がらなかった。ボールを奪う事の重要性を改めて痛感させられた場面でもあった。
ボールさえ持っていれば、あのようなスーパーシュートが決まる事もある。あれを不運だったと片付けているようでは、イタリアサッカー界は今後も流行に乗り遅れ続ける事になるだろう。
☆経験は積めば良いという訳ではない
カテナチオという言葉をご存知だろうか。
イタリア語で「錠(カギ)をかける」という意味があり、ゴール前にカギをかけたかのような守備陣の事をカテナチオと表現した。まさにGKの1つ手前を守り抜く番人のような存在であり、イタリアからは優秀なDFが多数輩出された。
アレッサンドロ・ネスタ、ファビオ・カンナバーロ、パオロ・マルディーニ、少し古くなるがフランコ・バレージやアレッサンドロ・コスタクルタと、イタリア人だけで世界最高峰のDFラインを形成する事が可能な時代もあった。
しかし、そんな時代はとうに過ぎた。現にバイエルンのようにゴールから遠く離れた位置でボールを奪うハイプレスサッカーが主流となり、今日のローマのような守備法は時代遅れとさえ表現される。現在のイタリアサッカーが不振に喘いでいるのも、原因のほとんどがトレンドに乗れていない事にある。
ローマのガルシア監督は「シティの方が経験豊富だった」と語ったが、それは違う。
イタリアサッカー界も充分に経験豊富だ。ただ、経験も間違えた形で積めば足を引っ張る事になる。柔軟な考えを持ち、それを取り入れる。イタリアサッカーはこの経験を積み重ねていくべきだろう。