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過渡期のバルセロナを「普通の人」エルネスト・バルベルデはどう救う?

 レアル・マドリードがUEFAチャンピオンズリーグで優勝し、幕を閉じた今季の欧州主要リーグ。マドリーはスペインリーグも制しており、2冠を達成。CLは現行フォーマットとなって以来、史上初の2連覇したチームとなった。

 “黄金期”が到来したとも言えるライバルとは打って変わり、バルセロナは完全に過渡期と呼べる時期に入っている。マドリーのタイトルラッシュが余程に悔しかったのか?シーズン中に今季限りでの退任を発表していたルイス・エンリケ監督の後任人事を、CL決勝が行われる週の月曜日に行うとアナウンスし、その週の話題を少しはさらった。

 5月29日の月曜日、バルセロナの新監督に就任したのは予想通りの人だった。アスレティック・ビルバオで今季までの4シーズンを指揮していたエルネスト・バルベルデ。2010年夏にはアルベルト・ザッケローニ氏よりも優先して日本代表監督のオファーを受けた、とも報道された現在53歳の指揮官だ。

スペインサッカーの転機の中で積み上げた確かな実績

 2003年に現役時代に最も長くプレーしたビルバオでトップチームでの“監督デビュー”を果たしたバルベルデ。バスク人だけしか在籍できない「バスク純血主義」なる“鉄の掟”により、戦力的に限りがある古豪クラブを、新人監督は就任初年度で5位に導いた。

 その後はスペイン国内では“もう1つのバルセロナにあるクラブ”=エスパニョールでUEFAカップ準優勝(現・UEFAヨーロッパリーグ)にまで導く快挙を達成。国外でもギリシャの絶対王者=オリンピアコスの指揮官に2度就任し、延べ3シーズン全てでリーグ優勝し、カップ戦も2度制した。

 2012年12月には低迷していた強豪・バレンシアの監督に就任し、初めてビッグクラブを指揮。最終的には5位にまでチームを復調させ、自身の監督キャリアで築いてきた経験と実績をまた1つ積み上げていた。

 しかし、バルベルデはバレンシアからの契約延長のオファーを拒否。不安定な経営を続けるクラブを危惧し、他の欧州各国リーグに遅ればせながらも健全経営の必要性が問われ始めたスペインサッカー界に置いて、彼はバレンシアよりも古巣・ビルバオを選んだのだ。

 しかも、翌年には復帰1年目のビルバオを4位にまで躍進させ、バルセロナからのオファーも受けていた。バルベルデに断られた次善の策だったルイス・エンリケの下で、バルセロナは初年度に史上初の2度目の3冠を達成したわけだが、ジョゼップ・グアルディオラ時代(2008-2012年)から続いた黄金時代の“延命措置”を施した感のあるチーム作りは先細りになっていった。

 その間、ビルバオ残留を選んだバルベルデは主力選手をビッグクラブに手放しながらも、毎年のように手堅く良いチームを作っていた。

“変人”の遺産を有効活用できる“普通の人”

 スペイン風に、「“続編”“正編”以上の作品にはならない。」イタリア的に表現すれば、「温め直したスープは美味しくない」

 2013年にビルバオの指揮官に復帰した際にこう口にしたバルベルデだったが、前述したように復帰初年度でチームを4位へと押し上げて16年ぶりのCL出場権を獲得。2015年にはクラブにとって31年ぶりとなるタイトル=スーペルコパ・デ・エスパーニャ(スペイン・スーパー杯=リーグとカップの覇者同士の対戦)まで獲得。第2期となったビルバオでの4シーズンは、リーグ戦で4位→7位→5位→7位と安定してチームを上位に押し上げた。

 国内外で豊富な経験を積んだバルベルデはスタイルに拘泥するのではなく、柔軟なチーム作りができる。チームのスタイル的には雨の多いバスク地方のグラウンドを意識したバスク伝統のフィジカルと鋭いサイド攻撃から仕掛けるという手堅い戦術。ただ、パス本数が「パスサッカー大国」スペインにあってトップ5を維持しているように、「繋ぐ時には繋ぐチーム」だ。

 そして、そこには“遺産”もあった。

 バルベルデの前任は、2011年から2013年まで指揮したアルゼンチン人指揮官=マルセロ・ビエルサ。“エル・ロコ(変人)”との異名をとり、これまたバルベルデと同時期に日本代表監督候補にも名前が挙がった名将だ。

 変人・ビエルサとの2年間、日々の斬新且つハードなトレーニングと独創性に溢れた前衛的システムにより、ビルバオの選手達は戦術的にも最先端なサッカーに取り組んだ中で日進月歩に成長し、個人能力をより一層に高めた。そして、2012年にはヨーロッパリーグとスペイン国王杯でのダブルファイナル進出を果たした。ただし、戦術的にも性格的にも難解なビエルサとの日々は選手達を疲弊させた。

 そんな時、「普通の人」と特徴を表現されるバルベルデは帰って来た。バルベルデはビエルサのようなカリスマ性はなく、戦術的にも革命をもたらすような斬新な変化は他のクラブでも起こした事はないが、ビエルサ時代にはなかった「平穏」をもたらしたことで、ビルバオはビエルサ時代よりも多くの成功をバルベルデと共に掴んだ。

 天文学的数字が並ぶ移籍市場やテレビ放映権料。選手個人にとっては、試合1時間前まで先発だと知らされながらメンバーを外されたり、チーム編成上で主力だと言い渡されながら突如として戦力外になる事も「普通」だとされるクレイジーなサッカー界で、バルベルデは常に正直であるからこそ、「普通の人」と呼ばれているのだ。

現在のバルセロナは革命を必要としているが、「調整型監督」バルベルデの需要は?