そして、迎えたこの日のC大阪堺L戦。今季のリーグ戦の対戦ではアウェイで8-2、ホームで1-4と大敗を喫した相手を前に、満を持して従来の主力組とカップ戦組をミックスして先発メンバーを構成。この1カ月間の強化の進度とチーム力の底上げの成果が問われる。
なでしこジャパンの高倉監督が見つめる中、ハリマにとっては今後へ向けてのターニングポイントとなりそうな試合。C大阪堺Lにはグループリーグ1位のみにしか与えられないリーグカップ決勝進出へ向けての重要な一戦が始まった。
ブロックをセットして守備意識を高めたハリマ
試合は意外にも普段は<4-4-2>で戦っているC大阪堺Lが、<4-3-3>のシステムを採用。宝田はもちろん、ここへ来て得点も量産し始めたMF松原志歩の守備負担を軽滅しつつ、中盤中央部の密度を上げ、ボール奪取からのショートカウンターをよりブラッシュアップさせる狙いだろう。
一方のハリマも普段は1トップ(3トップ)を採用する事が多いものの、この日はオーソドックスな<4-4-2>を採用。怪我で大黒柱のFW千葉を欠き、ベンチに主力組を温存しながら戦うハリマは、<4-4-2>の<4-4>のブロックを敷くことを最優先し、2トップもボールより後ろに引く事で守備意識を徹底させた。その効果は確実に顕れ、球際でもよく粘りつつ、コンパクトな距離間でチャレンジ&カバーも整理された守備ブロックでC大阪堺Lの強力攻撃陣に対抗した。
それでも宝田や松原志歩には個人技で複数枚のDFが交わされてピンチに陥ったが、主将DF藤本まどかが最後だけは割らせない捨て身のシュートブロック。同じ相手から前半だけで5失点を喫して以来、リーグ戦では出番がなかったGK岸星美も1対1のピンチに果敢に飛び出しての好守で均衡を保った。
攻撃面ではこの日は左サイドMFに入った葛馬がドリブルシュートを放った1本のみに終わったものの、普段はスーパーサブ起用のFW矢次亜佳音が右サイドMFの位置からカウンターで裏をとる形も見せつつ、ボランチに入ったMF今井晴香も懸命に攻守を繋ぎ、拮抗した戦いへ持ち込むことに成功。
スコアレスで折り返した前半はハリマのプラン通りだっただろう。
プラン通りに試合を運ぶも、終盤の松原志歩の2発に沈む
後半、ハリマ・ 田渕径二監督は満を持してスタートから主力組の虎尾直美と藤澤真凛を投入。それぞれ最近の練習試合では複数のポジションで起用された中、この日は虎尾が2トップの1角、藤澤は本来の左SBに入った。
そして、この戦略的選手交代は直ぐに実った。47分、右サイドに流れた虎尾へボールが渡ると、ファーサイドへの柔らかい絶妙なクロス。この“エンジェル・パス”に、左からゴール前へ入って来た葛馬が右足で綺麗に合わせたボレーシュートが決まり、ハリマがプラン通りに先制点を挙げた。
前線に虎尾が入った事でボールが収まり、尚且つ視野の広い彼女がスペースへと的確に捌くワンタッチパスが何度も決まり、ハリマはハーフチャンスを量産。藤澤の好守にアグレッシヴなプレーは左サイドMFの葛馬を押し上げる要因ともなっていた。そして、61分に攻守の要であるMF武田裕季を図ったかのようにピッチに送り、試合もコントロールし始めたハリマ。しかし、幾度かあったチャンスにシュートでも終えられなかった事が尾を引く。
78分、相手のFKから粘っても粘っても、C大阪堺LのFW矢形海優に折り返されたボールを、この日得点がなくとも誰よりも輝いていたMF松原志歩が押し込んで同点。88分にはその松原志が中央を崩して放ったシュートが決まって1-2。アウェイのC大阪堺Lが土壇場で逆転する。
最終盤、ハリマにはセットプレーにしか活路を見いだせないまま、試合はC大阪堺Lが勝利。リーグカップでは4戦4勝として決勝進出へ大きな勝利を挙げた。(以下、順位表参照)
そして、力強いドリブルでハリマDFをごぼう抜きしてからのラストパスや正確なクロス、セットプレーを両足で自在に操り、最後は自らの2得点で試合の結果まで決めた松原志歩が、この試合で高倉監督に特大のインパクトを与えた。
チーム力の底上げを感じさせたハリマ→攻撃のバリエーションにも可能性あり
この試合に敗れた前年度の女王・ハリマは、決勝進出がかなり厳しくなった。
ただ、リーグ戦で出番がなかった選手が何とか耐えに耐え、個人の持ち味を出して何とか攻撃も形にしながら、自分達よりも上位の相手に食らいつく姿勢は全面に出ていて、実際に拮抗した試合でリードしたまま終盤にまで持ち込めていた。攻撃は個々の特徴・持ち味を引き出すことがメインになるため、守備面で相当な手応えは掴めたハリマとしては、リーグ後半戦へ向けて“中間テスト”は上手く通過できたのではないだろうか?
今後、得点を量産する葛馬にマークが集中することが予想されるが、逆にそうなると、これまでは葛馬のフォローに回っていた虎尾や千葉(負傷中)のマークが少し薄くなるため、チームとしては攻撃にバリエーションが生まれる可能性の方が高いため、楽しみな部分も多い。
そして、この日も”オバドル”としても有名な岸田直美社長によるダンスショーやジャンケン大会、ハーフタイムショーは健在だった。負傷によりダンスショーを欠場する声も聞こえる中、早期回復させて見事なステージをこなし、試合後には「『(負傷中の)千葉には怪物と言われる私の垢を飲め』なんて言ってるんですよ!」とのお言葉。