その証拠にどちらも右利きではあるが、足元が不安なフォンテは右CBに配置されている。クーマンは吉田の技術を信頼し、利き足とは逆になる左CBに吉田を配置しているのだ。
吉田の左足から繰り出されるフィードをペッレが落とし、そこからタディッチや上がってくるSBを活かした攻撃でサウサンプトンは好調を維持してきた。これは吉田にしか出来ない芸当といえるものだった。
しかし、ネガティブな要素も多く見られた。前半27分、ルートリッジとシグルズソンのワンツーで吉田があっさりかわされ、ルートリッジにポスト直撃のシュートを撃たれてしまった。このシーンでは吉田のターンが明らかに遅く、ルートリッジ をフリーな状態でPA内に入れてしまった。
これは明らかに吉田の過失であり、彼の持ち味でもあるインターセプトを狙いすぎた事によるミスだった。もともと吉田はスピード不足で、カウンターなどの対処も苦手としている。今回のワンツーも相手の飛び出しのスピードに付いていけず、ルートリッジの服を引っ張る事すら出来なかった。吉田のスピード不足はクーマンも気にかけていたはずだ。
ネガティブな要素はスピードだけには留まらない。スウォンジーの1トップを務めるコートジボワール代表FWウィルフリード・ボニーのポストプレーを抑える事が出来ず、強引に反転される場面もあった。
当初ボニーは左サイド、つまりサウサンプトンの右サイドでボールを受けていた。この時のマッチアップは主将のフォンテだったが、フォンテは持ち前のフィジカルでボニーに仕事をさせなかった。
ところが、前半途中からボニーは明らかにサイドを変更し、マッチアップを吉田に代えてきた。これはスウォンジーのベンチから指示が出たのだろう。サウサンプトンはビルドアップの事も考えてフォンテと吉田を固定しているため、ボニーのためにCBの位置を入れ替える事も出来ない。
吉田は相手からパワー不足と判断され、ボニーの標的にされたのだ。結局はボニーが短気を起こして退場になったものの、明らかにボニーを軸に攻撃を組み立てられてしまっていた。
CBに求められるパワーで負けてしまい、クーマンとしては吉田の守備力に疑問を感じただろう。特にイングランドでは フィジカルが重視される傾向があり、CBがパワー負けする事は許されない。吉田は189cmと大柄だが、やはりボニーのようなパワープレーヤーには力負けしてしまう。
吉田のビルドアップ能力は魅力だが、それはどちらかといえばボランチに必要な能力であり、CBの優先事項は守備だ。ここはサウサンプトンであってバルサではない。CBに必要な資質を満たしていないと判断されても不思議はない。
吉田は高い位置で相手のパスをインターセプトするプレーも得意としているが、これもDFラインの選手としては不用意だ。成功すればカウンターのチャンスになるが、失敗して反転されれば一気にDFラインを破られる。
吉田がボニーのタックルで負傷した時、クーマンは何を考えていたのだろうか。吉田が倒れていた1~2分程度の間、吉田のポジティブな要素とネガティブな要素を天秤にかけてはかっていたのかもしれない。
結局吉田は前半のみで退いたが、クーマンはスパッとアルデルヴァイレルトをレギュラーに固定した。アルデルヴァイレルトはフォンテと同じく足元の技術に難があるDFだが、ベルギー仕込みのパワーがある。
DFに必要な資質は何か。海外でもがく日本人CBに世界の目は厳しい。