監督として初めてプレシーズンから指揮を執る事ができているジュビロ磐田の名波浩監督。名波さんの現役時代のプレーを振り返りながら、【ジュビロ磐田編】、【日本代表編】、【理想のパス&理想のMF編】、【理想の監督像】と書き下ろして来たのが前回までの4項でした。
今回はその最終回となり、過去4回分の記事を持って読み解いた名波さんのサッカー観をベースに、“監督・名波浩”としての仕事ぶりや戦術的な事も含め、僕なりの視点も交えて総括したレポートになります。最後までお楽しみください。
≪参照≫
“名波イズム”でスタートした今シーズンはここまでJ2リーグ7試合を終了して5勝1分1敗の2位。第6節・横浜FCとのアウェイ戦では、元日本代表のエースFW“キング”三浦知良に48歳38日というJリーグ最年長ゴールによる先制点を含む2点の先行を許すという厳しい状況ながら、名波さんと同じ左利きのMF小林祐希の豪快な長距離直接FK&クロス直接ゴールで同点。さらに試合終了間際には19歳のMF川辺駿とのワンツーから松浦拓弥のゴールで逆転勝利し、大事な3連戦を3連勝。チームはシーズン開幕から好調を維持しています。
エース・前田遼一の退団の衝撃以上に サイドアタッカー不在がチーム編成の軸
史上命題だった1年でのJ1昇格を果たせなかった昨季のジュビロ磐田。シーズン終了後にはJ1リーグ得点王に2度輝くなど、ジュビロ磐田でのリーグ戦で363試合に出場154ゴールを記録し、日本代表としても33キャップ10ゴールを記録している元日本代表FW前田遼一がJ1リーグのFC東京へ移籍しました。前田と同じく2度のJ1リーグ得点王を獲得した中山雅史(現・解説者)、同1度の得点王を獲得した高原直泰(現J3リーグ・SC相模原)に継ぐ日本人エースFWとしてクラブを象徴する存在であった前田遼一の退団は確かにショッキングな出来事でありましたが、前田の後釜には元イングランド代表FWジェイ・ボスロイドという相当な実力者を補強したのは強化としては懸命な判断だと思います。しかし、Jリーグ22年の歴史で5度の得点王をジュビロの日本人FWから輩出している事実が、コレによりなくなったのも残念です。
しかし、前田の退団以上にチームにとってターニングポイントになっているのは、多くのサイドアタッカーの退団でしょう。昨年夏の日本代表候補のMF山田大記がドイツ2部・カ―ルスルーエへ海外移籍していったのを始めとして、昨季終了後には山崎亮平(アルビレックス新潟)、ぺク・ソンドン(サガン鳥栖)、菅原実(レンタルから完全移籍移行)がチームから去っています。
ジュビロ自体がJ1昇格を果たせなかったり、出場機会を求めてであったり、魅力的なオファーが新しいクラブから来た、などなど選手個々で移籍・退団理由は様々あるとは思いますが、これだけスピードのあるサイドアタッカーが退団したにも関わらず、新たなサイドアタッカーは獲得しなかったのが、今季のチーム編成の特徴と言えるでしょう。(6年ぶりにチームに復帰したMF太田吉彰は以前は典型的なサイドアタッカーでしたが、5年間プレーしたベガルタ仙台ではFWやトップ下を経験したり、30歳を越えてプレーの幅が拡がっているため、ここでは敢えて触れません。理由は後記します。)
補強は前述のFWにジェイ・ボスロイドを筆頭に、ポーランドの年代別代表経験のあるGKクシシュトフ・カミンスキー、名波さんが「(名古屋グランパスやサンフレッチェ広島、大分トリニータでプレーし、2003年にはJ1リーグ得点王獲得の)ウェズレイに似ている」と評するFWアダイウトンという3人の外国籍選手を獲得。他にも“出戻り組”として前述の太田や、“名波の後継者”とも若手時代には言われていたMF上田康太も復帰。レンタルで川崎フロンターレの長身FW森島康仁とサンフレッチェ広島の19歳MF川辺駿も獲得しています。
特に昨季起用された藤ヶ谷陽介・八田直樹が共に安定感を見せられなかったGKに、“GK大国”ポーランドからカミンスキーという24歳の実力者を獲得した事が大きな戦力アップになっていると思います。アダイウトンは粗さが目立つものの、開幕からゴールを量産している事や、カミンスキーと共に24歳という年齢にあった向上心のある選手であるのも良好。あとは32歳でイングランド代表キャップを持つFWジェイが本格的にフィットすれば問題なしでしょう。そのジェイは急遽加入が決まったために調整が遅れて負傷がちですが、すでに開幕戦で2ゴールを記録しているので、名波さんと共に黄金時代を支えたMFであった服部年宏さんが強化部長として加わったフロントの仕事は満点に近いのではないでしょうか?