欧州蹴球文化探訪 第五の巻 リスボンで盗み見たシナリオ

それでも敵地でゴールを奪い、ホームでのノルマが1-0の勝利ならば良しとするリスク回避が奏効してアンフィールドでは卓袱台ではなく勝敗をひっくり返してベスト4に。準決勝はアトレティコが勝利して、その後は第3巻の記事の通りにつき参照されたい

この試合で二本ともPKのキッカーを務めたカルドソが、W杯日本戦でもPKを成功したことにより来日しにくいほど憎悪を抱かれたのかは定かでない。

フットボールの神さまが用意するシナリオは、誰にもわからない。クドカンも古沢良太も、そこにはいない。だが、このとき私はそのシナリオを盗み見ることができたと思った。

準々決勝のスペインーパラグアイ戦では、カルドソ、シャビ・アロンソ共にPKを外す珍事が起こる。カシージャスに至っては、マウスの外に弾き出すどころか鋭い読みでキャッチしてしまった。TVの前で卓袱台に身を乗り出し息潜めたが、カルドソが左足を振り切る前に、「コレ止められるよ」と感じ、その通りになったので卓袱台をひっくり返すほど驚いた。
トーナメントである以上、PK戦を想定してコーチ、控えキーパーも含め入念な準備と対策を練るのは至極当然。ここで約二ヶ月前のペペ・レイナの苦い体験が活かされ、間接的にではあるがリベンジは果たされたのだ。パラグアイのベンチに補助席で良いから用意してくれれば、キッカーをカルドソから代えるべき進言をしたのにと思うばかりである

エスタディオ・ダ・ルス

IT革命なる言葉が持てはやされて久しい。情報収集や分析を司るテクノロジーは、日々進歩している。
南アフリカ大会はPK失敗の多い大会と話題になったが、情報が多ければ人間の思考や行動癖を解析できる確率も高まる。
既にブラジル大会が終了して一年。南アフリカ大会の記憶などとうに色褪せるなか、駒野友一の涙する姿だけは忘れ難いと思う方も多いのではないか。
しかしそれ以上に脳裏に刻まれているのは抱擁を交わすカシージャスとペペ・レイナの姿となった。

いたたまれない歴史に目を背けても真実は見えない

映画『リスボンに誘われて』は、サラザール独裁政権下に生きた若き革命家たちの物語である。
 
大航海時代に植民地化したアンゴラとモザンビークではソ連・キューバに支援された独立革命軍との戦争が続いていたが、1974年リスボンでの無血革命により独裁政権は崩壊した。翌75年両国の独立を理由に、国境を下り南アフリカへと移住を余儀なくされたポルトガル人とその子孫が、南アフリカ大会でポルトガル代表へ大きな声援を送っていたことを知っただけでも価値のある大会だった。

歴史を紐解かなければ真実は見えない。歴史の裏に隠された真実を知ることで見える世界も変わる。

それは映画(芸術)であれ、フットボールであれ全ての文化に共通している。

革命日の名前が付けられた4月25日橋(リスボン)