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“賢攻”とパスサッカーの競演 シュート42本が飛び交うスペクタクル

 しかし、後半から川崎は武岡に替えて、昨季はJ2の松本山雅で19得点を挙げてチームのJ1初昇格の偉業達成に大きく貢献したFW船山貴之を投入。同時にシステムをスタートから採用した<3-4-3>から<4-4-2>へ変更。これで前半はサイドでポジションが重なって窮屈なプレーがあったエウシーニョ、レナトという個人技に長けるサイドアタッカーもスぺ―スを得て持ち味を出す事に成功します。

 レナトとエウシーニョがサイドを抉って“縦”を制し、中央では中村憲剛と大島僚太の新旧司令塔コンビが緩急自在のパス交換で“横”を制していく川崎の攻撃は非常に魅力的でした。観ていてウットリする面白いサッカーへのさらなるアクセントとなったのは、負傷からの復帰で63分に投入された日本代表FW小林悠。

 「パスやドリブルにメッセージがある」上記の攻撃陣とは異なり、「動きにメッセージがある」小林は70分、中村が縦パスを入れてエウシーニョがバイタルで落としたボールから、引いて来たFW大久保嘉人がスルーパス。中央でのテンポの良いパスワークが続く間に右サイドMFとして投入された小林はサイドから中央へダイアゴナル(斜め)に走り込んでゴール前へ侵入。大久保からの絶妙なスルーパスを受けると、懸命に戻る仙台DFのスライディングをキックフェイントであっさりを交わし、左足で流し込んで1-1。

 同点に追いついた川崎は続く72分、再び前線から引いて来た大久保が大島から横パスを受け、ノールック気味に相手DFの意表を突き、縦を破ったレナトに最上級のスルーパス。レナトが冷静に流し込んで決めた川崎が一気に逆転。1-2。

称賛されるべきスペクタクルの競演

 しかし、リードされた“賢攻”仙台はリスクを負って前に出ます。エリア内のウィルソンへのパスが通り、その折り返しを梁勇基のヘッドがゴールを襲う決定機を作り、そして80分でした。左サイドからパスを繋ぎ、エリア内への浮き球のパスを、奥埜が“ヒールボレー・フリック”。エリア内左サイドでフリーだったウィルソンへ渡り、彼のクロスがバウンドして流れたボールに、右SBの多々良敦斗がダイレクトで右足を一閃したシュートがゴールに突き刺さり、2-2の同点に。この場面、ぺナルティエリア内にはゴールを決めた多々良含めて6人もが侵入しているという攻撃の迫力は新たな仙台のサッカーを見せたと言えます。仙台の攻撃の組み立て方も見事でしたが、川崎はその迫力に負けたという感覚だったと思います。

 ただし、同点にされた川崎は後半に入って縦へのドリブル突破から躍動感を取り戻していたレナトが、個人技をチームプレーと勝利へ落とし込む決定的な仕事を連発。そして86分、前方にスペースが出来ているのを確認した上で中盤からパスを受けたレナトが左サイドで縦勝負のドリブル突破。ゴール前へ詰めた川崎攻撃陣を確認したレナトはグランダーのシュート性クロスを選択し、大久保が流し込んで2-3と川崎が勝ち越して勝利。結局、最終的には2年連続J1リーグ得点王が2アシストの後に自身で決勝ゴールを決める役者ぶりを見せた試合で川崎が逆転勝利。クロスはグラウンダーを多用して、シュートは流し込むだけという、個と組織の両方の要素が混じり合った川崎の攻撃は観衆を魅了しました。

 しかし、敗れたとはいえ、仙台の攻撃の迫力はシュート20本という数字にも表れている通り、確実に成果が出ていますし、観ている人々の心を打つプレーを続けています。この日は川崎も22本のシュートを放ち、両チーム合わせて42本のシュートが飛び交う熱戦でした。お互いがお互いを刺激し合って攻撃姿勢が引き出されたとも言えます。近年は1試合10本もシュートが放てないチームが多いJリーグにあって、この試合で両チームが魅せたパフォーマンスは称賛に値すると言えます。どちらにも勝点をあげたい試合でした。

“ファンタスティック6″だけではない 代表レベルの激しいポジション争い

 昨季は当コラムで川崎の中盤から前線までの主力である大島・中村・レナト・大久保・小林・森谷賢太郎の6人を“ファンタスティック6”と表現しており、彼等の高いテクニックを活かした流動的で華麗な攻撃の連携は、逆にそれが悪い方向にも出て、「この6人でないと出来ない」事から、選手層の薄さや終盤戦での疲労蓄積、負傷者続出という悪循環も招き、夏まではリーグでも首位に立つ時期もありながら失速。リーグ戦は最終的に6位に終わりました。

 しかし、この日に27歳ながら遅咲きのJ1デビューとなったFW船山はオプションとして逆転勝利に貢献し、現在は負傷中ながらも、セレッソ大阪から新加入のFW杉本健勇はすでに第4節のアルビレックス新潟戦で初ゴールとアシストも記録し、彼等新加入FWが“ファンタスティック6”だけではない新たな要素で、確実にチームの攻撃にプラスアルファをもたらしています。

 特に187cmながらスピードと突破力を兼備して多彩な攻撃を仕掛けられる杉本はすでに先発起用でも川崎の攻撃サッカーにフィットしている姿を見せているので楽しみです。ポテンシャル的には今後の日本代表への招集も期待したいので、彼の負傷からの回復を待ちつつ、出遅れていた小林が奮起する事で、大久保・小林・杉本・レナトという代表レベルのポジション争いで今後は選手層が昨季よりも飛躍的に分厚くなるでしょう。楽しみです。

 あとは・・何となく角田が久しぶりのセンターバックというポジションでの役割がどうなのか?というところでしょうが、守備陣も風間八宏監督が指導していた筑波大学出身のDF谷口彰悟と車屋紳太郎がポゼッションサッカーを追求する独自のDF像を披露しているので逆に楽しみに川崎の試合を観たいと思います。