81〗FAC Platz / ウィーン

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ちなみに劇場ではなく、封切からしばらくしてネカフェの個室で視聴して感涙した。既に主演俳優がこの世に存在しない状況で制作された『お帰り 寅さん』に対して、やれ脚本がどうとか演技がこうとか論じるのは野暮の極み。チャリティマッチの試合で公式戦同様選手のプレーを採点するぐらい無意味ではないか。

技術レベルが高ければ、感動するわけではない。寅さんがおしえてくれたこと

女優業どころか日常日本語を使う機会も少ない後藤さんが、スクリーンにその変わらぬ美貌を披露してくれただけで感謝。当初日本には存在しない職業であるキュレーターから、アンジェリーナ·ジョリー:Angelina Jolie【1975年6月4日生】の難民支援活動で知られるUNHCR上級渉外官、慈善活動団体の職員という設定に変更されたのには苦笑した。筆者はオーストリアのサンクトペルテンではキュレーターと紹介されている。参考画像 
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そしてUNHCRとも少々関わり僅かな支援の経験もある。写真を並べてみたらフローリツドルファーのユニフォームと国連のシンボルカラーである水色の色味がほぼ同じことに気づいた。濃度は国連のほうが若干薄いのか。エンディングで同じ曲が流れるのは諄いどころか、「これが聴きたかったんだ」と心に染み入った。桑田さんには申し訳ないが、オ-プ二ングは、渥美さん以外の方であれば、誰でもよかったのである。
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名優の他界で傷心した人々をノスタルジー=郷愁に誘う『男はつらいよ お帰り 寅さん』は慈善的作品だ。渥美さんは転移性肺癌により六十八歳で鬼籍に入ったが、作中では寅さんの死を曖昧なままにしてくれているから、スクリ-ン=心の中に寅さんは生き続けている。自分のことよりも他人を思いやる寅さん。四角い顔で優しく温かい言葉をかけてくれるだけでもう胸いっぱい。他に何を求める必要があるのだろうか。感想をネット上にあげることは言論の自由だし賛否両論があるのも世の常。それでもあえて作中の寅さんの優しい言葉に救われた方ならば、故人への敬愛と謝意を持って、優しく温かい視線を持ってこの作品を見るのが作法だろう。〖第八十一話了〗

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◼️写真/テキスト:横澤悦孝 ◼️モデル:大山成美