19〗Štadión Antona Malatinského / トルナヴァ


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そして最期に登場したのは白い主将章を左手に巻いたミルコビッチ。対峙するのはオレンジの腕章を巻いたスキンヘッドのロベルト·アルマー:Robert Almer【1984年3月20日生】この試合の二か月前に開催されたUEFA欧州選手権2016フランス大会では全三試合にフル出場した当時オーストリア最高のゴールキーパー。
ミルコビッチの振り抜いた左足から放たれたボールはややコースが甘かった。ピッチ上俯せに倒れ込むと仲間が駆け寄ってもしばらく立ち上がれなかった。この試合の映像をYouTubeで見つける。BGMにはスウェーデン出身の人気DJのアヴィーチー(本名:ティム·バークリング:Tim Bergling【1989年9月8日生-2018年4月20日没】)の大ヒット曲『ザ・ナイツ』(2014年)が驚くほどハマっている。素人がこさえた見るに堪えない動画が散見するYouTubeではあるが、この作品の編集はシンプルで非常にセンスが良く気に入っている。最後のPK失敗シーンの前で終了しているのもよい。
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『ザ·ナイツ』の歌詞が幼い息子をスタジアムで抱き締めた頃の記憶を呼び戻す。試合前は大はしゃぎしていても、キックオフの時間には疲れて寝てしまう。よくこんな声援がうるさくても寝息をたてているものだ。試合が終わる頃には腕が痺れているが、柔らかい感触と温もりは生涯忘れようがない。'92年のナビスコ杯から翌年のJリーグ開幕直後の独身時代は足繁く通ったスタジアム。最後に行ったのが2006年9月17日の川崎フロンターレ対ジュビロ磐田。第23節にしてJ1最年長プレーヤーの中山雅史:Msasashi Nakayama【1967年9月23日生】(現アスルクラロ沼津監督)は遅ればせながら今季初のゴンゴール。38歳11か月25日は当時日本人で最高齢。四連勝中の川崎に土ををつけたが、かつての輝きは失せて久しく、この日は雨でずぶ濡れ必至とあって小学生になったばかりの息子は連れていかなかったのを覚えている。
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Made memories we knew would never fade♪ 思い出は、決して色褪せないと僕らは知っている

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彼が二十八歳の若さで自ら命を絶った事は腑に落ちないし無念でならない。翌19年の遺作収録の『freak』で流れるのは『上を向いて歩こう』のメロデイ。ティムが来日中偶然耳にしたそうだ。それがJR川崎駅だったのかもしれないが、調べる術もないので勝手に川崎駅だと思い込むことにする。人生の孤独や苦難などの障害を乗り越える《力》の源は思い出にあるとティムが書いたメッセージ性の強い歌詞。永六輔:Rokuske Ei【1933年4月10日生-2016年7月7日没】さんの歌詞と不思議な類似性が感じられる。『上を向いて歩こう』には薄っぺらい失恋ソングでは太刀打ちできない前を向かせる力強さがある。

あの日ユ二フォ-ムで顔を覆い涙に隠したミルコビッチも上を向いて歩きだす。アウストリア戦から半年後'17年からの新天地ポ-ランドでは二部降格を経験。'20年に古巣に復帰し主将章を受け取ったからトルナヴァサポーターが涙を流し歓んで迎えるのも無理はない。
4月2日のカップ戦準決勝はスロウァン·ブラティスラヴァ戦と事実上の決勝戦。170cmに満たない小柄な体躯でチームを牽引する左サイドバックは三十四歳の現在も主将章を巻いて味方を鼓舞し、愛するクラブで339試合目の出場を果たした。
Don’t forsake this life of yours♪ 決して人生を諦めず、So live a life you will remember♪ 思い返してよかったと思える人生を歩みたいものである。〖第十九話了〗