何が「奇跡」かと言うと、本拠地が人口僅か27000人のみの田舎町に位置し、ホームスタジアムであるイプルアは1部リーグへ昇格した事で今まではなかったバックスタンドを急遽建設。それが完成しても収容人数が現在の5250人から6000人越えの微増。やっとそれで2部リーグの基準に満たしたくらい。90年近いリーガエスパニョーラの歴史上で「最もホームタウンの人口が少なく、最も小さいホームスタジアムを持つクラブ」です。
それだけでなく、シーズン中に各選手に支給されるユニフォームは破けたり、試合後に相手選手と交換したりしても9枚目以降は有料実費負担になるシビアさ。ホームスタジアムに駐車場がないため、試合日にはアウェイチームのバスがスタジアムに横付けするしかないほど。もちろん、エイバルの選手たちは路上駐車でスタジアム入りしています。
そもそもクラブの歴史として最も多くシーズンを過ごしたのは2部どころか4部リーグ。年間予算は今季初めて1部リーグへ昇格した事で前年の4倍になったものの、約20億円で1部リーグのクラブでは断トツ最下位。ハーフナー・マイクが所属したコルドバが後半戦2分17敗の未勝利により、勝点20の断トツ最下位に終わり、その貧乏経営に注目が集まっていたとしても、彼等の方がエイバルよりも10億円以上は年間予算で上を行くくらい。昨年までは年間予算5億円という日本で言えばJ2に上がって来ても驚かれそうなクラブがリオネル・メッシやクリスティアーノ・ロナウドのいるリーガ・エスパニョーラ1部に昇格して来た事自体が「奇跡」です。ちなみに年間予算5億円だった昨季は1部・2部合わせても最低予算だったそうです。
3年前にはBチームが消滅。しかし、代わりにユース上がりの若手選手は下部リーグのクラブへレンタル移籍させ、クラブの強化担当は3人しかいないものの、その中の1人がレンタル移籍中選手のフォローや、レンタル受け入れ先との提携などの業務に専属させる事で、「育成」と「強化」を連結させるなど十分な工夫もしています。ちなみに2000年にはシャビ・アロンソ、2004年にはダヴィド・シルバがレンタル移籍でやって来て1年間プレーしたクラブでもあります。2人はエイバルでプロとしての土台を築き、のちのEURO2008、南アフリカW杯2010、EURO2012という国際大会3連覇という偉業を達成したスペイン代表で3大会全てでエントリーされる選手に至りました。
エイバルの所属カテゴリー年数
プリメーラ(1部) 1
セグンダ(2部) 26
セグンダB(3部) 7
テルセーラ(4部) 28
日本では15000人収容のスタジアムがないとライセンスが公布されないなど、J1やJ2に昇格できないクラブがありました。2013年のにJFL優勝を果たした長野パルセイロ、2014年にJ2リーグでJ1昇格プレーオフ圏内となる5位に入ったギラヴァンツ北九州は共にサッカー面の成績を満たしていながらスタジアムがJリーグの企画に間に合っていなかったためにJ2昇格とJ1昇格プレーオフへの参加が見送られました。特に長野は新スタジアム建設の計画が進み、今季からはその新スタジアムで戦っているのに・・・。
エイバルがもし日本にいたら、おそらくJリーグの規定の前に犠牲になっていた事でしょう。スペインではサッカーの競技面の成功が重視され、スタジアムの収容人数は向上努力さえ見せていれば1部リーグに昇格が認められ、バルセロナやレアル・マドリーと同じカテゴリーで戦う事ができるのです。