世界最強の隠し味は、「一人ポゼッション」
四年に一度世界最高峰を決める舞台となった横浜国際総合競技場。画面の時刻表示は44分。ルディ・フェラーは彼の登場を苦々しく思ったに違いない。
同じく日韓大会のトルコ戦。1点リードで後半途中出場。二人、三人でもボールを奪えず四人がかりの赤いユニフォームをあざ笑う。縦に抜けるスピードは凡庸でも、緩急の妙で相手の逆を取り股の間を抜く。
華麗なステップで観客の心を掴む至高のドリブラー、デニウソン。ポゼッションは本来リヌス・ミケルスが、「自分達がボールを保持している限り相手にゴールを奪われることはない」という攻撃的発想から生まれた守備戦術。
フェリペ・スコラーリは試合のクローザーとして、自己犠牲の精神は皆無、組織戦術にそぐわないと言われ続けたドリブラーを指名した。
この大会のデニウソンを一言で表現するならば「一人ポゼッション」。
サンパウロで脚光を浴び、移籍金額で世界を驚かせたベティスでのリーガ時代、二部降格時にはレンタルされたフラメンゴでの貴重な映像も。
組織の中で孤高のドリブラーが輝いたフランス大会
4分5秒からアーロン・ヴィンターと対峙する約10秒の映像が流れる。1998年フランス大会準決勝のオランダ戦。ピッチ上の監督ドゥンガは、デニウソンとロベルト・カルロス、左サイド「個」の力を引き出す配球。組織で攻めるオランダと互いの攻撃志向がぶつかる大会屈指の好ゲーム。
ノルウェー代表DFに足かけられ倒されても起き上がるとドリブルを続け、ベベットの先制点をアシストしたのもこの大会。
兎に角ボールを足元に収めたら離さない。味方にもボール出さず《持ち過ぎ》を常に批判された彼が「ボールを離さない男」として評価されたのがノルウェー戦。
クラブレベルでの栄光には縁がなかったデニウソン。強烈な「個生」が集い突出したレベルにあるセレソンだけが彼の本領を発揮できるステージだったのかもしれない。