プレミア定着を狙うワトフォードの魅力~伊・西・英で3クラブ保有するポッツオ家の投資
2012年にイタリア1部リーグのウディネーゼのオーナーでもあるジャンパオロ・ポッツォに買収されたワトフォードには大きな特徴がある。
今季9年ぶりのプレミアリーグを戦うワトフォードと聞いて思い出すのは、ピッチ外では世界的歌手のエルトン・ジョンが会長を務めていた事と、ピッチ内では現ウエスト・ブロムウィッチ・アルビオンのイングランド代表GKベン・ファスターがマンチェスター・ユナイテッドでの若手だった2006-2007シーズンの1年間をレンタル移籍ながら正GKを務めて大きく名を挙げたくらい。実際、そのシーズンもプレミア最下位により、1年で2部降格に至った。今季は1992年のプレミアリーグ創設以来3度目の昇格だったが、過去1度も残留を果たした事はないクラブだ。
そんなクラブに大きな変化があったのは、上記したウディネーゼを所有するポッツオ家の買収以降。ポッツオ・グループはウディネーゼの他にもスペイン1部のグラナダも所有している。ウディネーゼは世界屈指のスカウト網により、無名の優秀な若手選手の発掘に長けた育成型クラブの模範だ。だからこそ、そのウディネーゼで出番のない若手やEU外の外国籍扱いとなる選手に出場機会を与えるためにグラナダとワトフォードを買収したのが目的だった。
ただ、グラナダもワトフォードもポッツオ家に買収される以前は、良くても国内2部リーグの中位程度だったクラブが、今ではどちらもトップリーグに根を張ろうとしている。双方にとって利益は大きいのだ。もちろん、どちらのクラブにもウディネーゼからのレンタル組が所属しており、イタリアン・ルール必殺の“共同保有権利”選手や、この3クラブ間で不自然に移籍を繰り返す選手も多くいる。今季のプレミアリーグで14ゴールを挙げて大ブレイクしているナイジェリア代表FWオディオン・イガ―ロもこの3クラブ全てに所属経験がある選手なのだ。
その中でのワトフォードの位置付けが面白い。来季からプレミアリーグのテレビ放映権料が倍増するため、たとえ最下位であってもバイエルン・ミュンヘンよりも放映権収入が上になるプレミアリーグに残留が濃厚となっている。そのため、ポッツオ家はウディネーゼよりもワトフォードを優先するかもしれない。
湯水の如く大型補強に資金を垂れ流すファイナンシャル・ドーピングのような買収劇ではなく、純粋にサッカーを愛している人々のビジネス拡大は興味深い。
プレミア最強2トップと知将キケ・フローレスの手腕
実際、今季も監督にスペインのバレンシアやアトレティコ・マドリーなどの強豪クラブで指揮を執り、2010年にはアトレティコ・マドリーでUEFAヨーロッパリーグを制したキケ・サンチェス・フローレス監督を招聘している。ポッツオ・グループの3クラブでは最も実績のある監督で、未だ51歳と伸びしろもある。
高額な移籍金でビッグクラブへステップアップを遂げる、元・無名若手選手をどんどん輩出するノウハウが蓄積されているウディネーゼの例をとるならば、やや中東のクラブでくすぶり気味だった知将・キケにも違約金を設定し、監督のステップアップ移籍もビジネスとして成立させそうだ。セクシーな大人の男性の色気を漂わせるキケには女性ファンも多いだろうし、昇格組ながらも国際色豊かな選手が揃うワトフォードは異色な魅力が漂い、新たなファン層も形成されそうだ。
そんなワトフォードには前述の14ゴールを記録しているFWイガ―ロと、同8ゴールのトロイ・ディー二ーによる、“プレミア最強2トップ”と称せるコンビがいる。2トップを採用するチームが少なくなった事もあるが、この2人は攻撃の全てを2人だけで完結してしまうからこそ、最強なのだ。イガ―ロはスピードとフィジカルを合わせ持った単独での突破力を持つ強引なFWで、一方のディー二―はキープ力はあるが、古風な英国産のFWというイメージだ。どちらもパサーになれるタイプではないが、なぜか補完性は抜群。昨季も2部のチャンピオンシップで2人合わせて41得点を挙げている。(イガ―ロ20得点、ディー二―21得点)
そして、個人としては特段優れたDFはいないが、ユニットとしての守備陣は現在リーグ29試合で3番目に少ない30失点に留めている。逆に最強2トップがいるのに、攻撃面ではリーグで3番目に少ない29得点に止まっている。イガ―ロとディー二―で合計22ゴールを占め、2つのオウンゴールを差し引くと、その占拠率は81%となる依存状態だ。しかし、その最強2トップのイメージを利用して相手チームに脅威を与える事で慎重な試合運びを選択させている。武器となる看板を作るも、実は堅守速攻型のチームなのだ。キケ・フローレス監督のチーム作りは優れた広告代理店のプロモーターのようにも見える。