試合の方はエルフィンのキックオフからのボールを中盤で奪ったINACが左サイドに展開すると、この日初先発のMF仲田が一気に縦にドリブルで持ち出してスペースを走破。FW高瀬とのワンツーも交えて左サイドを突破すると、ファーサイドへクロス。川澄が頭で折り返すと、相手DFがもたつく間に高瀬が落下地点に入り、意表を突いて放った浮き球シュートが決まって1-0。INACが実に開始30秒での電光石火の先制点。高瀬は怪我からの復帰後の4試合連続得点となりました。
しかし、これでINACが落ち着いて試合の主導権は握ったものの、エルフェンは決して引かず。攻撃的なチーム作りとプレースタイルが浸透しているチームが、同じような戦い方をする格上が相手となった場合に志向するサッカーとはどういうものか?
それはDFラインを高くしてコンパクトな陣形を維持し、ボールを奪ったら直線的にショートカウンターを狙う。たとえリアクションサッカーになったとしても、それが攻撃的なチームのプライドと、2列目のスピードやタレントが活きる術で、この日のエルフェンは筆者が贔屓にしているアーセナルがバルセロナやバイエルン・ミュンヘンに挑む姿に似ていました。
前半だけでINACを5回もオフサイドという”ルールに引っかけ”、中盤で”ボールを引っかけ”ると、縦に速い攻撃を仕掛け、フィニッシュにもどんどん繋げていくエルフェンのサッカーは切れ味も鋭く、攻撃意識の高くてスタイリッシュ。
ただ、INACとの力関係上リアクションに徹しているために、ゴール前の人数が少なくて、攻撃の迫力や厚みには欠けていた印象。ただ、それでもテクニック面ではINACにも見劣りせず、FW高橋彩織のドリブル突破からのシュートや、薊が右サイドからの突破とクロス、切り込んで中央へ侵入する攻撃はバリエーションもありました。
INACはそれでもFW高瀬がバイタルエリアで起点となり、ぺナルティエリア内へのスルーパスにFW大野が抜け出してGKと1対1という決定機も演出。ただ、これはGKの好守に遭い追加点はならず。
結局、前半はINACが1点リードで折り返しましたが、INACを相手にしたスぺランツァ高槻や伊賀FCなどと同じく、なでしこリーグの下位のチームが見せるパフォーマンスの高さはリーグ全体のレベルが確実に上がっている事を証明していたように感じます。
交代出場選手の活躍が光る中、結果を残した京川・増矢
後半、INACは得点を挙げていたFW高瀬、チームにフィットしきれていなかったMF仲田に替えて、FWには増矢、左サイドMFには京川と東アジア杯招集コンビを後半開始から投入。エルフェンも1トップにスピードのあるニュージーランド代表FWサラ・グレゴリアスと、MF荻原愛海を投入。両チーム合わせて4人の選手交代があってスタートした後半は、前半とは違った試合に展開していきました。
エルフェンはグレゴリアスを1トップに配置。動き出しやスピードに優れる彼女が相手CBとの1対2くらいの状況であれば、後方から一気に最前線のスペースにロングボールを供給する回数が多く出て来ました。グレゴリアスもその期待に応えて、自らドリブルで抜け出してシュートに至ったり、フィニッシュまで持ち込めなくてもサイドでキープして起点を作るなど、前半のエルフェンにはなかった「深さ」を取る攻撃を仕掛ける事が可能になりました。
INACも投入された京川と増矢が積極的に攻守両面で前へ前へと仕掛ける事で、前半とは違ってテンポが2段階ほど上がったような激しい試合に。ただ、前半は交代で退いた仲田がワイドに張ってポジションを取っていた事が相手の日本代表MF薊への抑止力となっていた局面が、左サイドMFに入った京川が攻撃時には流動的にポジションを変えるために、この局面を狙って薊が攻撃面で活きる場面が急増。いくら京川が相手ボール時にハードワークしたところで、それよりもエルフェンの攻撃が素早いために落ち着かず。
そして61分。高い位置でルーズボールを拾った薊が1トップのグレゴリアスにクサビのパスを入れるとファウルで直接FKを獲得。30m級の距離でしたが、エルフェンMF高野紗希が左足で放った威力抜群の弾丸ライナーは代表守護神GK海堀の正面に飛んだものの、急激に手元で球筋が伸びたボールに海堀がパンチングミス。そのままクロスバー内側に当たってゴールに決まり、エルフェンが遂に1-1の同点に。
しかし、INACも直後に縦に速い攻撃。62分、ビルドアップしながらFWの大野が相手DFラインを抜け出す動きを見たCB甲斐潤子がワンタッチで最前線のスペースにロングパス。大野がぺナルティエリア内まで持ち込んでキープし、戻したボールに途中出場の増矢がシュート。これはDFのブロックに遭うも、ゴール前に詰めていた京川が冷静に無人のゴールへ押し込んで2-1。京川は3試合連続得点。
その後、INACはFWの大野に替えて、MFに中島依美を投入。京川を2トップに上げると思いきや、伊藤香奈子をトップ下に配置した<4-2-3-1>にして中盤をコントロールする事で試合をクローズさせながらも、タメを作って最前線のスペースに1トップの増矢を走らせて追加点も狙うプランに変更。それまで中盤が間延びした時間帯が長かった事や、エルフェンのDFラインが高かったため、このプラン変更が効果を功を奏してINACの思惑通りに時間を消化。
それでも諦めなかったエルフェンは、91分。薊が右サイドからドリブルでエリア内に侵入。代表左SB鮫島を交わして、左足でGKとDFの間に低く速い「触れば1点」の最高級のクロスを供給。しかし、これに飛び込んだ高橋の伸ばした足は僅かに届かず。INACが2-1で逃げ切って3連勝。首位をキープしました。
相手の弱点よりも、自分達の良さを追求
なでしこリーグはパ・リーグに似ている?
両チームのシュートが2桁に達する好ゲームで、高瀬が4試合連続、京川が3試合連続で得点。増矢と薊も得点に絡む活躍。久しぶりの先発フル出場となった田中明日菜も運動量豊富に両ゴール前に顔を出して積極的に絡む「ボックス・トゥ・ボックス」なMFという日本では珍しいプレーを披露するなど、このタイミングでの地方開催、リーグ最多観客動員の中で、東アジアカップに招集された両チームの計5選手が活躍。W杯メンバーから17人が入れ替わり、平均年齢で4歳も若返った代表選考に異論も飛ぶ中、調子の良い選手が選ばれている事が証明された点でも良い試合になりました。
相手の良さを消すよりも、自分達の良さを部分的にでも出す意識を追求するなでしこリーグ。
プロ野球で例えるならば、相手打者を緻密に分析して弱点を突いたり、頻繁な投手交代により継投策で勝ちきるようなセ・リーグではなく、真っ向から自分達の武器を出し合って勝負するパ・リーグに似ているのかもしれません。