“戦術家”トゥヘルの奇策に対応したペップ
確かにドルトムントの大胆な奇策は「バイエルンにリズムを与えない」事には成功していたのですが、同時に自分達をも撹乱。ボールを奪っても普段のDFラインとは全く違うドルトムントは、後方からのビルドアップが落ち着かず。それでも全くバイエルンに攻撃の芽を与えず、逆に22分にはサイドチェンジから左サイドに開いたアルメニア代表FWヘンリク・ムヒタリアンがこの試合の流れの中からでは初となるシュートをカットインから放つなど互角に見える20分間でした。
ドルトムントは香川がシャビ・アロンソ、ムヒタリアンがボアテングにマンツーマン的に付いた事で、バイエルンの後方からの組み立てすら許さず。こうして、トゥヘル監督が自分達のサッカーの形を崩してまでバイエルンのサッカーを封じる“戦術家”ぶりを見せて来たのに対し、開始15分頃までリズムが掴めない選手達の動きを見ると、バイエルンのジョゼップ・グアルディオラ監督も即座に修正。その修正は3バックに入っているハビ・マルティネスとジェローム・ボアテングの位置を入れ替えただけ。
ただ、この僅かな変更により、シャビ・アロンソやハビ・マルティネス、チアゴ・アルカンタラというボール扱いに長けたスペイン人MFがドルトムントのプレスを引き付ける事で、3バックの中央に入ったボアテングに“時間”という名のスペースが生まれ、ボアテングから長いレンジの縦パスやサイドチェンジがズバズバと通り始めました。
26分、主導権を握り始めたバイエルンは後方からどんどん縦パスを狙っており、ハビ・マルティネスがグラウンダー(地上)の縦パスを防がれると、今度はハーフウェイライン付近からボアテングが浮き球でDFラインの裏へロングパス。レヴァンドフスキが引いて出来たスペースへ斜めから走り込んだミュラーが、飛び出してきた相手GKの鼻先でボールに触り、GKとDFを一緒に交わして流し込み、相手を攻略したバイエルンが1-0と先制。
さらに35分、バイエルンは今度は球筋の速いグラウンダーのパスとドリブルを織り交ぜて急加速。チアゴ・アルカンタラがぺナルティエリア内にドリブルで持ち込んだプレーに対して、懸命に戻ったムヒタリアンがファウルを取られてPKを献上。いつも通り、ミュラーがボールを全く見ないで蹴る独特のフォームで確実に決めて2-0。
パスを3本すら繋げないドルトムントは、この時間帯から普段の<4-2-3-1>へ戻しており、これが功を奏します。失点直後の36分、最終ラインのフンメルスが押し上げた上でバイタルエリアへグランダーの縦パスを入れ、受けたムヒタリアンもシンプルに右サイドへ展開。右サイドのカストロは丁寧にダイレクトでグラウンダーのクロスを転がし、バイエルンのGKとDFの間を通してファーポストにフリーで走り込んだオーバメヤンへ。確実にゴールに流し込んで2-1とドルトムントが追い上げムードを見せて前半を折り返しました。
ただし、ドルトムントはこの布陣変更で蘇ったものの、個人の技量やチームの完成度で上回るバイエルン相手には中盤に隙が出るため、PKを取られたような場面がどうしても出来てしまいます。しかも、失点直後にグアルディオラ監督はすでにこのドルトムントの流動的な攻撃を抑えるために修正していました。中盤のラームを右SBに回して4バックにし、システムもドルトムントと同じ<4-2-3-1>にし、個人力量の差が出やすいミラーゲームのような戦略を執って前半を終了していました。
実力の差を披露したバイエルンが大勝
後半、いきなり試合は動きました。開始20秒、バイエルンが再びボアテングが最終ラインから浮き球のロングボールを最前線のスペースに蹴り込み、走り込んだレヴァンドフスキがつま先で絶妙のワンタッチコントロール。中途半端に前に出た相手GKを外してゴールに流し込み、3-1に。
これで試合の大勢は決まってしまい、ドルトムントが53分に早々と2枚替えの選手交代を行っても、何か新たな策を仕掛ける事が出来たわけもなく、逆に2点リードのバイエルンがドルトムントのプレスをいなすように後方でビルドアップをしながら、裏を突いていく試合巧者ぶりを見せました。