しかし、W杯に5大会連続出場している現在の日本は、1999年のワールドユース(現U20W杯)準優勝という日本サッカー界の歴史に残る快挙を成し遂げた“黄金世代”をそのままフル代表に登用する事が強化と言えた時代とは違います。志向しているサッカーも連携や経験が重視される継続性が必要なモノになってきました。加えて、下部年代の代表チームがアジア予選を突破できずにいる現状では、大胆な世代交代へ着手できない方が自然です。
今大会で初優勝を果たした開催国・豪州は長年に渡って着手できなかった世代交代を施すにあたり、ブラジルW杯最終予選の突破を決めたにも関わらず、ホルガ―・オジェック監督を解任し、現在のアンジ・ポステコグル監督体制へ移行。その上で本大会まで1年を切っている段階で選手選考にも大幅な変更を施し、強引に世代交代を敢行しました。韓国も前回大会に当たる2011年のアジアカップカタール大会から現在の主力メンバーを大胆に登用して来ました。
豪州はもともと身長の高い選手のフィジカル能力を活かしたパワープレー重視のサッカーをしていましたが、主力メンバーの一新により変化しました。FWマシュー・レッキーやロビー・クルーゼ、今大会公式MVPに輝いたMFマッシモ・ルオンゴ等を強引に主力に抜擢した際は結果も全く出てませんでした。FIFAランキングが100位という3桁でアジアカップ開催を迎えたのはその証拠にもなります。
ただ、ブラジルW杯ではチリ、オランダ、スペインという強豪相手に3戦全敗に終わりながらも、参加32ヶ国中で1試合平均の運動量が最多走行距離を記録したり、オランダ相手に一時は逆転して見せるなど非常に好印象なサッカーを見せていました。そうしたデイティールの見極めは”我慢”をポジティヴに捉える意味で重要です。
結果的に豪州は魅力的なサッカーを披露した上で、アジアカップ初優勝という大きな結果を手にしました。韓国も毎年のように監督が交代していた近年の事を考えれば、延長戦の末の準優勝は立派な成果だと思います。UAEとイラクは下部年代の代表チームで結果を残してきた蓄積がいよいよフル代表でも効果を発揮してきたと言えます。
代表は育成の場ではないが 同時に後継者を探す場所でもない
「代表チームとは育成の場ではない」
「代表チームとはその時の最強のチームであるべき」
そんな言葉がハビエル・アギーレ“元”日本監督が就任した頃の経験の浅い選手の選出について疑問を呈されました。ブラジルW杯でも、その前年のコンフェデレーションズカップでも未勝利で惨敗してきたからこそ何かを変える必要があるのに、変化にアレルギー反応を起こす日本サッカーの現状は如何なものでしょうか?それも強化試合に結果を求めたり、ブラジルやウルグアイに負けた事が「結果が悪い」と報じられるのは、あまりにも行き過ぎていませんか?
「遠藤保仁の後継者を探す」という考え方をするから、誰もそれを超えられない。どんなに徹底された戦術があるチームでも、選手が変わったら多少はサッカーの内容・方向性にも変化が生じます。もちろんリスクはありますが、リスクだけが起きるわけでもありません。新しい選手が台頭すれば新しいプレースタイルが注入されるわけで、今まで代表キャップがゼロだった柴崎岳や大島僚太のような選手が定着すればまた違ったサッカーが生まれます。
考え方としても、“遠藤の後継者を探す”というより、“遠藤の役割を継ぐ”と意味合いを少し変化させれば、柴崎と大島がインサイドMFでコンビを組むというやり方で継げるかもしれません。その分、1トップにストライカーが置けない形になるかもしれませんが、それはそれで中盤から追い越していく選手が増えれば良いし、むしろそっちの方が日本が世界で勝つためには向いているかもしれないぐらいです。
そもそも後継者を探すというのは、後継者には個性を消せ、と言ってるようなものではないでしょうか?代表に選ばれるぐらいの選手ですから、そこには個性があって当然なのに。代表とは育成の場所ではありませんが、同時に後継者を探す場所でもありません。
顕著だったアジア全体に拡がる”日本化” 傾向はポジティヴでも現状は”我慢”の時期
また、今大会のサッカーの内容面でのトレンドに、当コラムでも大会前から“日本化”が進むと予想しておりました。やはり、過去6大会中4回の優勝を成し遂げた日本の強化策を取り入れようとしてる動きは様々なチームから感じ取れました。もちろん、下部年代の代表チームの強化、継続の重要性といったピッチ外の事もそうですが、最も顕著だったのはピッチ内で展開されたポゼッション志向への傾倒だったと思います。自陣ゴール前にチーム全体が引いて”堅守速攻”どころか、ゴール前にバスを置いていただけのような中東勢。そこから脱却したスタイルでベスト4に進出したUAEとイラクには非常にポジティヴな大会だったと思います。UAEにはオマル・アブドゥルラフマンという稀代のファンタジスタが存在を知らしめた事も含めて自信をつける事が出来たと思います。
ただし、“アジアのバルセロナ”と言われる日本のパスサッカーを取り入れようとするチームが増えた事で、実際の競技力が向上したとは言えません。むしろ低下したかもしれません。引いて守ってカウンターだけで結果を残すやり方の方が効果ですし、個人技で打開できるタレントが少なくなったのも“日本化”がマイナス背景になると言えます。本家・日本が世界で完全に通用しているとも言えない現状では、パスワークを重視するスタイルを取り入れても、W杯にも出場できていないアジアの国々がそれを志向したところで精度は落ちます。
重要なのは、アジア全体が“我慢”の時期だということ。
なぜ日本がポゼッションやパスサッカーに拘るかと言えば、「10回やって1、2回だけ勝てる偶発性のサッカー」よりも、「10回やって8回は勝てるような必然性のサッカー」を提唱しているから。主導権を握ったパスサッカーを志向しているのは、UAEが日本相手に35本シュートを撃たれながらPK戦へ持ち込んで勝つという偶発性ではなく、逆に「35本シュート撃って負けたら仕方ない」ぐらいに思える事の方が大事だとは思いませんか?
スペインもブラジルW杯でグループリーグ敗退に終わりましたが、だからと言って今までの“ティキ・タカ”(スペイン流パスサッカーの呼称。パスを回す時の音が由来)に対する疑問が沸いてスタイル変更を問うような声はありません。むしろ基盤がしっかりあるので、世代交代の必要性があればそのままバトンタッチするだけで大丈夫なような土壌があるのは羨ましいと思います。
多くのアジアのチームは、今までロングボールを使う時は単純にGKやCBがドカーンと大きく蹴るだけでしたが、今大会ではGKとDFラインでボールを回して相手FWや2列目のプレスを引き付けてからロングボールを放り込む”戦略的ロングボール作戦”も観られるようになりました。これは相手を引き付けてから放り込むことで、相手は陣形が間延びした状態でロングボールを受けるため、セカンドボールを収集しやすくなります。今大会でGKが大きく蹴り出す回数が激減し、GKからのスローイングが多かったのも、こうした戦略や引き出しを取り込んだからだと言えます。我慢の時期だとはいえ、こうした引き出しを少しずつ増やしながら、技術的な精度や完成度を高めていく事がアジア全体に求められているのでしょう。
アギーレ監督の解任を発表した日本ですが、アジア全体も今は我慢の時期。結果を追求する一方で、内容やディティールに注視する事も必要な現状、僕もそうした眼を養っていく事に注力したいと思います。