遠藤はバルセロナのサッカーを理想に掲げ、よくテレビ観戦もしているそうなのだが、「自分がバルセロナでプレーするなら、どのポジションでプレーしたい?」と問われると、いつも「(セルヒオ・)ブスケスのとこですね。」と、<4-1-2-3>の“1”であるアンカーのポジションを希望していた。
スペインでは“ピボーテ”と呼ばれる役割で、直訳すると“軸”。パスワークの軸となり、守備面でも類まれなる危機察知能力を活かしたポジショニングでカヴァーできるバランサーとして、“ピボーテ・遠藤”は本人も希望するポジションと役割だっただろう。
そして、今季のG大阪は昨季J1リーグ4位からのアジアチャンピオンズリーグ参戦となったため、J1リーグの開幕から3週間前にACLプレーオフを戦うという日程に苦しんでいたが、そのプレーオフのジョホール・ダルル・タクジム戦からDFラインの前に遠藤を置いた新システムを本格採用。快勝してACL出場権を掴むと共に、新システムに一定の手応えを掴みながら、ACL開幕戦もアウェイながら豪州のアデレード・ユナイテッドに0-3と快勝してJ1リーグの開幕を迎えた。
“ピボーテ”ではなく“アンカー”だった現実
ただし、気になる部分があった。得点に多く絡んでいたMF今野泰幸と、全く絡めていないMF井手口陽介のポジショニングだった。2人は遠藤の斜め前方にいるインサイドMFだった。(上記の図を参照)
しかし、今野は攻撃時にサイドMFのように左サイドのタッチライン際まで開いてしまうため、バランスが悪くなっていた。それを井手口がケアすると、もともとのポジションにスペースが空いてしまう。結果的に守備時には今野と井手口はサイドのケアをするため、大きく空いた中央のスペースにはトップ下のMF倉田秋が遠藤の隣に下がって対応していた。バイタルエリアのケアやセカンドボールの回収に秀でているはずの今野と井手口がサイドをケアし、攻撃面に多くを割かせたいはずの遠藤と倉田がバイタルエリアをケアする歪な構成となっていたのだ。
G大阪の長谷川健太監督はこうした課題を埋めるべく、開幕直後に3バックシステム<3-1-4-2>を採用。これで今野がサイドに開き過ぎる動きは修正された。しかし、実質的に5人のDFをピッチに立たせるシステムは守備的に過ぎ、攻撃は今野の怪我によりインサイドMFにも入ったり、FW起用もあった倉田のさらなる“超過労動”に頼っていた。ハードワーク過ぎるハードワークと直訳できるか?それでも倉田はその期待に応え、J1では開幕から12試合で6ゴールを挙げてチームを牽引し続けていた。
チームは3バックに変更後は攻守のバランスが改善され、負傷者が出て4バックに戻したり併用したりしながらも、特にJ1リーグでは開幕から13試合で1敗のみ。首位争いをしていた。しかし、ACLでは開幕戦の勝利以降は未勝利で早々とJクラブ勢唯一のグループリーグ敗退が決まっていた。J1リーグでは個の能力の高さやセットプレーで得点は奪えていたが、とにかく攻撃が単発だったのだ。
この新システムは『超攻撃のガンバ』だったはずの名門が、長谷川監督就任後のタイトル獲得と同時に失って来た攻撃サッカーの復活を狙ったものだったはずだ。今季はFWの補強不足もあり、それを補うための策でもあった。しかし、いつまで経っても遠藤を軸としたパスワークは構築されず、指揮官はいつも「今日のヤットはガツガツと守備が出来ていた」などの守備面だけに言及する姿が見られた。つまり、指揮官は攻撃面の“ピボーテ”としてではなく、守備面の“アンカー”としての評価基準しか持ち合わせていなかったのが現実だろう。次第に遠藤はトップ下起用やベンチスタートを命じられる。同時期に先発に定着したベテランのMF藤本淳吾が好調だったのもあるが、藤本も負傷離脱。
そして、“FC倉田”と表現できたほどの倉田の進撃がトーンダウンすると、そのままチームも急降下。倉田は同時期から代表に定着し始めてコンディション調整を危惧されているが、代表では得点に多く絡む活躍ぶりを披露する一方、G大阪では失速を感じさせるパフォーマンスに甘んじるのは、チーム戦術上の“超過労働”の弊害を受け続けているからだろう。倉田は開幕12試合6ゴールのあと、累積警告での1試合の出場停止を除く20試合に全て先発出場しているが、2ゴール(うち1得点はPK)に止まっている。
結果、G大阪は9月7日に長谷川監督の今季限りでの退任を発表。そして、この退任発表以降の公式戦での未勝利が続き、その数字はJ1リーグ最終節を残してリーグ戦では9試合(3分6敗)、全公式戦ではクラブ史上最長の12試合にまで延び、未だ継続中だ。ただ、上記したように倉田のトーンダウンが見られた時期からすでに失速しており、リーグ戦のここ17試合では2勝4分11敗の勝点10に止まっている。すでに半シーズンを最下位のよな成績で過ごしているのだ。(下記の期間別成績比較を参照)
本当に遠藤保仁は衰えているのか?
[パスミスが増えている。運動量が落ちた。守備力が危惧される。]
遠藤の衰えを指摘する批判はこんなところだろう。しかし、本当に衰えているのだろうか?
2007年のヤマザキナビスコカップ(当時大会名)優勝時、当時の西野朗監督は、
「今日のヤットは1年分ぐらいタックルしていた」
と言うように、20代中頃までの遠藤は普段から守備面で軽さを露呈する事もあった。親しみを込めて言わせてもらえば、1人の守備者としてだけ見れば、最初からアウトだろう。ただ、それは学年で言えば“同期”に相当する司令塔である元イタリア代表のMFアンドレア・ピルロ(現ニューヨーク・シティ/アメリカ、今月で現役引退。)や元スペイン代表のMFシャビ・エルナンデス(現アルサッド/カタール、来春に現役引退発表。)も同じだ。