残り4試合で復帰した長期離脱を繰り返す天才MF

 やっと“彼”が帰って来た。

 4月24日、イングランド・プレミアリーグは残り4試合となった第35節を迎えていた。リーグ優勝の可能性も実質ほぼゼロとなったアーセナルはアウェイでのサンダーランド戦を迎えていた。

 アーセナルはここ数年に渡って幾度も長期離脱を繰り返してきたイングランド代表のMFジャック・ウィルシャーが今季公式戦初めてのベンチ入り。勝たないとチームの3年ぶりの無冠が決定しまう試合だった。序盤の決定機をモノに出来ずに徐々に膠着した試合はスコアレスが続いた。84分に司令塔のドイツ代表MFメスト・エジルに替えて今季初出場を果たしたウィルシャーだったが、試合を動かすことは出来なかった。

 サンダーランドと引き分けたアーセナルはリーグ優勝の可能性が完全消滅。3年ぶりの無冠が決定した。

『Aresenal Way』を体現するウィルシャー~18歳で『プレミア最優秀若手選手賞』

 アーセン・ヴェンゲル監督が就任して20年の月日が流れたアーセナルには、ヴェンゲル流の攻撃的なサッカーが定着した。そして、「美しく勝利せよ」の路線に沿ったクラブの哲学にして美学『Arsenal Way』が自然と植え付けられた。ただ、その美学の1つであるボール支配率が6割を越える試合が頻発し始めたのは、2003-2004シーズンにプレミアリーグを無敗優勝(26勝12分)した“インヴィンシブルズ”のメンバーが全員退団した2009年頃からだ。以降、“ポゼッション王者”にはなれても、リーグ王者とは疎遠になってしまった。

 ただし、そこに9歳から『Arsenal Way』のメソッドを繰り返し習得して来た体現者であるウィルシャーが君臨し続けていれば状況は変わっていたかもしれない。

 ウィルシャーは2008年9月にクラブ史上最年少の16歳と256日でプレミアリーグデビューを果たした超逸材だ。翌シーズン後半戦に同じプレミアリーグに所属するボルトン・ワンダーランズに半年間のレンタル移籍をしてプレミアの舞台での実践感覚を養った。武者修行先のボルトン監督オーウェン・コイルにはアーセナルユース時代の攻撃的MFではなく、セントラルMFとして起用されたことで新境地を開拓することができた。この時でもまだ18歳だった。

 そして2010年夏、ボルトンから満を持して復帰すると、18歳のウィルシャーはセスク・ファブレガス(現・チェルシー)やサミル・ナスリ(現・マンチェスター・シティ)、アレクサンドル・ソング(現・ウエストハム)等と魅惑の中盤を形成。人もボールも動く『Arsenal Way』を体現したこのシーズンのアーセナルは、最終的にUEFAチャンピオンズリーグを制覇するバルセロナにもラウンド16の第1レグで2-1と勝利。その試合のマン・オブ・ザ・マッチにはウィルシャーが選出された。第2戦で敗れて敗退したものの、両チームの選手の中で最も輝いていたのは紛れもなく19歳になったウィルシャーだった。

 そして、このシーズンのプレミアリーグで最優秀若手選手賞を受賞するウィルシャーの魅力は、「現代サッカーの完成形」と言われたジョゼップ・グアルディオラ監督が率いていた当時のバルセロナを相手にしたこの試合で最大限発揮された。

エジルをも脇役に従えるほどのポテンシャル~ウィルシャー最大の魅力とは?