しかし、話はそう上手くは進まない。日本がサッカー後進国である事は誰もが認める部分であり、これまでの監督も本気でW杯優勝を考えた事は無いだろう。現実的に考えればドイツやイタリアの方が日本よりも優れたタレントを擁しており、真っ向勝負で勝てるほど甘い世界では無い。
となれば、誰もが堅守をベースにしたスピードサッカーを掲げるはずである。しかしこれまでの日本は、W杯直前に路線変更した2010W杯以外で堅守速攻を掲げた事は無い。日韓共同開催となった2002W杯より、日本はテクニックのある中盤を最大限に活かす攻撃的なサッカーを志向してきた。
では、なぜ堅守速攻を取り入れようとしないのか。そこに日本が世界トップレベルと戦う難しさがあるのだ。
まず、日本の立ち位置を理解しなくてはならない。世界的に見れば実力は真ん中あたりで、W杯ベスト16あたりが妥当な線となる。しかし、アジアではトップレベルの力を持っている。つまり、アジアは日本を強敵と考えて守備的な布陣を敷いてくるのだ。
日本は守備を固めるアジア勢を崩すために、ポゼッションを軸とした攻撃的なサッカーを志向する必要があるのだ。アジア勢が日本に速攻を許すほどスペースを与える訳は無く、逆に相手が堅守速攻を狙ってくるのだ。そうした環境下で日本が堅守速攻を磨き上げる事は難しく、W杯アジア予選を突破するには必然的に攻撃的なサッカーとなってしまう。
当然W杯でも同じ戦い方となり、強豪相手にもポゼッションを軸とした真っ向勝負を挑む以外に手が無いのだ。
アジア予選で堅守速攻を選択し、なかなかゴールを挙げられない場合、メディアはこぞって「得点力不足」と叩いてくるだろう。徹底的に守備を固めてくるアジア勢を倒すには、チャンスの質を上げるしかないのだ。単純な速攻だけで崩すのは難しく、見ていてつまらないサッカーとなってしまう。
ほとんどの機会で弱者を相手にする日本に対し、一方のスイスやチリは同じ地域にW杯優勝経験のあるチームがズラリと揃う。彼らは自然と守る側のチームとなり、堅守速攻が否が応にも植え付けられていくのだ。予選を戦う環境もスタイルに大きく影響を及ぼしているのだ。
では、どうすればよいのか。ハリルホジッチは就任会見で「少し時間が欲しい」とコメントしている。自身のスタイルを浸透させるまでに時間がかかるという事だ。私は、これからの2年間で結果が振るわなくとも、2018W杯で結果を残せばそれで良いと考えている。
ザッケローニ体制では全く逆の事が起こり、親善試合でオランダやフランスと互角に渡り合ったにもかかわらず、本番のW杯では1分2敗という散々な結果となった。アルジェリアのように32か国中弱小と言われても構わない。そこで決勝トーナメントに進出する「結果」を出せばいいのだ。
そのためにも、日本のサポーターの意識をさらに高める必要があるのだ。目先の親善試合の結果にとらわれず、ハリルホジッチの提唱するサッカーがW杯に繋がるものかを見極めなくてはならない。アジアで結果が出たからといって、世界でも同様の結果が残せるとは限らないのだ。
逆にアジアで結果が出なくとも、世界では結果が出やすいかもしれない。アジアという特殊な環境と、そこでの日本の立ち位置を理解したうえで日本代表を応援する必要があるのだ。
アジア予選で引き分けが増えたり、最少得点での勝利が増えたとしても、それにブーイングを浴びせるべきではない。ブーイングは結果に浴びせるものではなく、内容に浴びせるものだからだ。歓喜する瞬間も同じだ。ハリルホジッチのサッカーを理解し、それを実行した選手には最大限の拍手を送らなければならない。
初陣となったチュニジア戦では誕生日を迎えた内田の登場に歓喜が沸き起こり、地味にチームに貢献する選手への拍手は無かった。世界的に見れば日本が地味な立場にあると捉え、草の根的精神で拍手を送る場面が必要なのではないだろうか。ハリルホジッチが日本に新たなアイデンティティを植え付けてくれる事に期待する。