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唯一の才能は「サッカーを辞めない」ということ

丸山龍也選手画像
 才能やセンスというものとは無縁、何か身体的特長があるわけでもない、特別大きな経歴や実績があるわけでもない。

 でも「サッカーを辞めなかった」それだけが唯一の才能ー。

 サッカーを始めたのは小学校1年生の時のことでした。遊んでいた仲良しの友達が急に揃ってサッカーをはじめ、じゃあ俺もやってみようと思ったのがキャリアのスタート。
 はじめた当初は所謂「習い事」の域を出ず、土日になんとなく校庭へ通っていただけのサッカーでした。

 しかし、シドニー五輪の日本代表の活躍と中田英寿が失敗したPKに刺激され、放課後に一生懸命ボールを蹴るようになったのが小学校2年生の秋。それ以来、サッカーのことを考えなかった日は一日たりともありません。人生のほとんどをサッカーと共に過ごしてきました。

 とは言えサッカーの才能や身体能力に恵まれたとはいえず、選抜歴もなければ全国レベルの大きな大会に出たこともないし、それどころか運動会のリレーの選手は雲の上の存在、中学生の頃には当時付き合っていた彼女よりも腕相撲が弱いような「運動オンチ」でもありました。
 サッカーだけは好きで好きで毎日頑張っていたので、なんとか上達はしていましたが、同年代のサッカー選手をすべて集め、実力順に並べることが出来るのならば自分の実力は”中の中”と言ったところ。華々しいプロの世界とは無縁の存在であったことは間違いないと思います。

 しかし今、僕はプロサッカー選手としてサッカーだけの生活を送ることができている。それは何故か?と聞かれると、ただ単純に「サッカーを辞めなかったから」という他にありません。そしてそれが僕の持つ数少ない才能であります。
 ですが、辞めようと思ったことなんてないからずっと続けてきた…というよりは、何度も辞めようと思ったけど辞めなかった、ということ。サッカーなんてもういいや!と思ったことは一度や二度に留まらず、こうして仕事としてサッカーをしている今ですら、ことある度にそういう気持ちになっているのが現状です。

 大きな大会に負けた時、目標を見失った時、プロになんてなれっこないと諦めた時、自分の人生や将来を考えた時、友人と自分を比べた時、怪我をした時、誰かにもう辞めたら?と言われた時・・・その数は、同年代で既に競技から退いている人の何倍もあるかもしれません。それぐらいサッカーを辞めてもおかしくない瞬間は僕のもとに訪れます。でも辞めない、いや辞められない。

 サッカーとは基本的に上手くいかないことばかりのスポーツです。上手く行かなからこそ、1−0や0−0のロースコアな試合が頻繁に起きるわけですし、それは日頃のトレーニングでもサッカー人生全体を見ても一緒のこと。
 でも入らないシュートも打ち続けてればいつか入るように、続けてればそれはそれは爆発的に大きな喜びを得られるのがサッカーの醍醐味でもあります。
 ワールドカップで1点を決めた瞬間、どれだけ自国のサポーターが熱狂するのかを思い出せば、その「上手く行った時一瞬の爆発力」が凄まじいのは誰もが想像できるはず。時に人を狂わす魅力があることは、多くの人に共感して頂けるでしょう。

 これはサッカー選手としての人生でも同じことが言えます。
 
 地道な基礎練習やフィジカルトレーニングに加え、サッカーは90分の試合で自分がボールに触れていられるのは僅か2分程…といういわば「失敗の連続」のスポーツ。ですからゲーム形式の練習でも達成感や充実感を手にする瞬間は少なく、基本的に練習では、サッカーをしている喜びを常に感じることは出来ません。

 更に僕の場合は、人と比べて技術的に優れているわけではありませんから、もう日頃の練習は出来ればやりたくないレベル(笑)それでも真剣に毎日取り組むし、課題があれば苦しくてもトレーニングするのは、頑張って続けていればサッカーの爆発的な魅力に繋がる瞬間があると知っているからです。

 その魅力とは大会での勝利であり、自分のゴールであり、上達を実感した瞬間であったり、誰かに評価されたりと様々なのですが、そんな一瞬が訪れた際には「もうサッカーを辞めよう・・・」と思っていたことなど、全て吹き飛ぶぐらいの快感を僕は確かに手に入れられるわけです。

 才能がなくても、挫折しても、大きな怪我をしてもサッカーを辞めなかった。その理由はここにあります。
 
 そして「辞めなかった」の連続と積み重ねの結果、僕はプロサッカー選手になることが出来ました。

 この連載コラムではそんなサッカーの魅力を、僕なりに皆さんにお伝えしていければ良いと思っています。もしかすると、多くの人が感じているサッカーの魅力とは違うところに僕は魅力を感じているかもしれないし、さらにもしかすると、僕が感じている魅力には共感できない方や、違和感を覚える方もいるかもしれない。

 でも、そんな角度からもサッカーって楽しめるのか!と思ってくれる人が少しでもいてもらえれば、それはそれは嬉しい限りです。

 次号では僕が歩んできたサッカー人生の歩みに触れながら、サッカーの魅力をお伝えしていきたいと思っています。