ここ数年は急激に評価を落としていたCBのピケも、この日は鋭い読みと1対1の強さでレアルのBBCトリオの前に立ちはだかった。決してペップ時代のような組織で魅せるサッカーでは無いが、メッシ、スアレス、ネイマールらの個人能力で確実に白星を増やしている。
エンリケの采配も堅実なものだった。後半31分には縦への推進力のあるラキティッチを下げ、本来はアンカーとしてプレーするブスケツを守備要員としてインサイドハーフに配置。その4分後にはイニエスタを下げてシャビを投入し、ボールを奪いに出てくるレアルのプレスをいなす役割を担わせた。
自分たちのポリシーを貫き通すチームだったバルサが、チームの力を結集して1点のリードを守りに行く姿はある意味新鮮でもある。攻撃は3トップのカウンターに委ね、サイドバックの上がりも自重した。この堅実さこそが、後半戦の爆発に繋がっているのだろう。
私はシーズンの前半終了間際、バルサがこのままのペースを続ければレアルを抜いてリーガを制覇できると書いた。クラシコでは内容こそレアルがわずかに上回っていたと感じるが、最終的に勝利を掴んだのはバルサだ。勝利主義のバルサが完成されつつあり、まさかの3冠も見えてきた。
欠点を挙げるとすれば、3トップが機能しなければ何もできないところだ。1人でも負傷や累積警告で欠けば、攻撃力はガクリと落ちる。リーガ、国王杯、CLの3冠を達成するには、3トップがハイパフォーマンスを続けることが絶対条件となる。
守備面も重要だ。堅守に徹する場面が増えたといっても、やはりメッシとネイマールの守備への参加率は悪い。ここはCLのような大舞台では確実に突かれる穴であり、彼らの気まぐれが勝敗を左右しかねない。あらゆる意味で3トップのチームなのだ。
今はコンディションも安定しているが、このままのペースで3トップを使い続ければ確実にバテる時が来る。シーズン後半の優勝争いが本格化する時期と、CLの準決勝あたりの事を考えると休息を与える事が必要だ。
しかし、現在は3トップの代わりを務められる人材がいない。
もはやバルサイズムを理解している選手であれば誰でも遜色なくプレー出来た時代とは違い、今は単純に個人能力の高さが求められている。バルサの18番でもあったカンテラから選手を引き抜くやり方が意味を持たなくなってきているのだ。
ペドロやラフィーニャでは個人能力で劣るため、カウンターの威力が落ちる。今のバルサはカウンターが生命線となりつつあるため、カウンターサッカーに適応できない人材は必要ないのだ。
バルサイズムを捻じ曲げたエンリケの未来はどうなるのか。少なくともシーズン後半に選手たちの疲労が原因でパフォーマンスにブレが生じた時、確実にエンリケのサッカーは叩かれる。試合の進め方は堅実かもしれないが、シーズンの戦い方は実に綱渡りなものとなっている。
前任のマルティーノ政権時にはCL決勝トーナメントより選手に疲労の色が顕著に出始め、シーズン後半戦は心身ともにボロボロとなってしまった。特定の個に依存するやり方が吉と出るのか凶と出るのか。少なくとも、今の戦い方を変える判断はありえない。パスワークも、カンテラも、そんなオプションは無いのだから。