“ドイツ版クラシコ”による頂上決戦経て<ドルトムント編>
今季のドイツブンデスリーガも8節を終了。今季の特徴としては、1部リーグ昇格組で似たようなクラブ名のインゴルシュタット(悲願の初昇格)とダルムシュタットが旋風を巻き起こしており、逆に昨季リーグ3位に躍進したボルシア・メーヘングラードバッハが開幕から5連敗で、2011年2月の就任以来6シーズン目に当たるルシアン・ファブレ監督が辞任する事態も起きました。
また、夏の移籍市場ギリギリで昨季2位のヴォルフスブルグがベルギー代表MFケヴィン・デ・ブルイネを、昨季4位のバイヤー・レヴァークーゼンが韓国代表FWソン・フンミンをそれぞれイングランド・プレミアリーグのマンチェスター・シティとトッテナム・ホットスパーに「ブンデスリーガ史上最高額」「アジア最高額」の莫大な移籍金により引き抜かれた影響も出ており、話題は尽きません。
今後は先日発覚した世界的大手自動車メーカーのフォルクスワーゲン社の不祥事により、彼等を親会社に持つヴォルフスブルグや、同企業の傘下にあるアウディ社の積極的な投資によって今季から初めて1部リーグに昇格してきたインゴルシュタットに影響が出てくるかもしれません。アウディと言えば、バイエルン・ミュンヘンや・・・・日本代表もなんですが・・・。
そんな異常現象が多い今季のブンデスリーガですが、開幕から5連勝を記録したのはリーグ3連覇中の王者バイエルンと、昨季はまさかの大不振で後半戦開始を最下位からスタートしたボルシア・ドルトムント。所謂“ドイツの2強”です。開幕から2つのチームが5連勝するのはブンデス史上初の偉業で、復活したドルトムントの強さが際立っていましたが、その後の2試合を引き分けてしまい、その後も連勝を続けているバイエルンとの勝点差は4に開いた上で、代表ウィーク直前にバイエルンのホームで、この両クラブによる“ドイツ版クラシコ”が行われました。この試合の結果と内容を詳細したレポートはこちらを参照ください。『ブンデスリーガ第8節、バイエルンVSドルトムント~技術・戦術・采配全てで王者が圧勝』
ドルトムントはこの大一番に普段とは違って中盤の守備を分厚くした上で臨みながら、5-1と大敗してしまい、それでもリーグ2位を維持したドルトムントと勝ったバイエルンの勝点差はすでに7ポイントと大差に。今季のブンデスリーガもバイエルンのモノになってしまって独走を許す事になってしまいそうです。
クロップ時代の終焉 ”リノべーター”トゥヘル時代の到来
昨季のドルトムントはリーグ最下位から何とか後半戦になって盛り返し、リーグ7位でフィニッシュしたものの、2010-2011シーズンから優勝→優勝→2位→2位の他、2011-2012シーズンはドイツカップ優勝とのシーズン2冠、翌シーズンには欧州チャンピオンズリーグでも準優勝、とクラブにとっての”黄金時代”と言える近年の成績から一気に陥落。昨季限りでチームを6年間指揮したカリスマ指揮官=ユルゲン・クロップ監督も退任するに至りました。
ボールを奪えば5分5分の割合でもどんどん最前線へボールを供給し、収められなかったとしても、チーム全体を極限まで押し上げた上で相手ボールになった瞬間から激しいプレッシングをチーム全体で仕掛ける“ゲーゲン・プレッシング”。いわば、「ボールを持たない状態」をメインにした“逆プレス”で“逆カウンター”によって一気にゴールに迫るという時代のトレンドとなった新戦術により躍進したクロップ監督のドルトムント。しかし、その特異な戦術には超万能型FWロベルト・レヴァンドフスキ(現・バイエルン・ミュンヘン)の超人的なボールを収める能力や卓越した決定力がなければ苦しかったのかもしれません。
また、相手からの対策も進んだ事や、クロップ監督の下で育った選手を監督自ら切る決断も躊躇してしまう事もあるので、相対的にクロップ監督も「自分が去る事がクラブにとって最良」と自ら記者会見でも話した通りの理由で退任に至った事でしょう。
後任にはそのクロップ監督が2008年の夏にドルトムントにやって来る直前まで監督を務めていたマインツ05(現・武藤嘉紀所属)で、2009年から2014年まで5シーズンに渡って指揮したトーマス・トゥヘルがクロップの影を再び追いかけるように新監督に就任。マインツは地方の小クラブで、クロップ監督の下でクラブ創設100周年となる2004-2005シーズンに初めて1部リーグに昇格したクラブ。資金力にも乏しいチームをドルトムントでも魅せたように運動量やスピードを武器にした組織的な戦術で2年連続の1部残留も果たし、それ以上に得点も失点も多い攻撃的なスタイルで人気となったクロップとマインツ。そのクロップ時代のマインツのリーグ最高順位は11位でした。そのクラブをトゥヘルは率いた5年間でリーグ戦一桁順位にまで3度押し上げ、2度の欧州リーグ出場権も獲得するに至った優秀な監督です。
ただし、マインツでもドルトムントでもゼロからチームを作り上げたクロップは“イノベーター(発明家)”タイプで、トゥヘルはクロップが作った土台の中から吟味して取捨選択をしてから発展させる“リノベーター(改修)”タイプと呼べます。どちらも必要とされる指導者のタイプで、その招聘のタイミングもマインツとドルトムントにとって最適と言えるでしょう。
42歳のトゥヘルは2000年から国家プロジェクトとなった育成大改革の先端となるドイツ新時代の指導者。優秀な若手選手が育って来ると共に若手の指導者も育って来た中での最先端を行く気鋭の若手監督ですが、クロップとは似てるようで似てないような・・・そのカリスマ性によるモチベータータイプのクロップとは違って、トゥヘルは冷静沈着な戦術家で、ミスよりもとにかく闘う事を重視するクロップと緻密さや精度に拘るトゥヘル。試合前にも「トンカツとステーキ食べとけ」(例え)タイプのクロップに対して、選手達が「体重が4,5キロ減って身体が軽くなったよ」とアマ二油やクルミ油を食事で摂取するよう指導するトゥヘル。
ただし、単純に戦術的にも変化があった今季のドルトムントですが、新旧監督の違いもさることながら、クラブの変化にも触れておく必要があるでしょう。
マイナスからのスタートだったクロップ時代 ビッグクラブ化した中で迎えたトゥヘル時代
1990年代半ば辺りからブンデスリーガや欧州チャンピオンズリーグを制していたドルトムントは強豪でしたが、さらなる強化資金調達のために取り組んだ株式公開に失敗し、2000年代半ばに債務超過によるクラブ消滅の危機になっており、有力選手は軒並みクラブを去りました。移籍金のかかる選手には投資できない状態に陥り、タダ同然の若手選手主体の育成型クラブに切り替えた時期にやって来たのがクロップ前監督でした。