『サッカー女神』澤穂希は永遠に
【皇后杯決勝】
アルビレックス新潟L0-1INAC神戸レオネッサ
<得点者>
[INAC神戸]澤(78分)
【マッチレビュー】『女神』が自ら飾った有終の美
澤穂希とはサッカー界の「女神」だ。
サッカー界には「王様」ペレや「神様」ジーコ、「皇帝」フランツ・ベッケンバウアー、「将軍」ミシェル・プラティ二、「神童」ディエゴ・マラドーナなどの偉大なる異名を持った伝説的な選手がいる。
澤に異名をつけるとなると「女神」なのではないか?そう思える程、この日も「勝利の女神」が彼女に微笑んだ。いや、「女神」である澤が自ら微笑んだ、とも言えるのかもしれない。
カテゴリーを問わずに女子サッカーの頂点を決める「皇后杯」全日本女子サッカー選手権大会の決勝。すでに引退を発表している女子サッカー界の“レジェンド”澤穂希のラストマッチともなった。
澤の影響力が女子サッカー全体に波及
2011年にドイツW杯優勝を果たしたなでしこジャパンの多くが揃っていたINAC神戸。当時は開幕前のリーグ戦での目標設定は優勝はもちろん、「無失点での全勝優勝」だった。実際、それを目標に掲げるほど毎試合のように相手陣内に押し込む試合が90分間で続くハーフコートゲームばかりだった。無失点も全勝も叶わなかったが、2011年と2012年はなでしこリーグを無敗で優勝。2013年にはリーグで2敗してのリーグ優勝も、リーグカップ、皇后杯、国際女子サッカークラブ選手権(クラブW杯に相当)の4冠を達成していた。
そんなタレント軍団を相手にこの日の新潟Lは守るだけでなく、勇敢に前に出ながら攻撃を仕掛けた。新潟Lは今季のなでしこリーグでINAC神戸に勝っている。そもそも今季のINAC神戸は前半戦を首位ターンしながら後半戦で失速して2位。さらに、リーグ戦の上位6チームで行われるエキサイティングステージでは全5試合で1勝しか出来ずに、リーグ戦は3位で終えていた。
現在のINAC神戸には2013年の得点王にもなったアメリカ人FWゴーベル・ヤネズや韓国代表MFチ・ソヨンのような実績のある外国籍選手はいない。MF川澄奈穂美やDF近賀ゆかり、FW大野忍、MF/DF田中明日菜も海外移籍をしてチームを離れていた時期もあった。澤を筆頭にベテランの括りに入る選手も多く、確かにタイトルを独占し続けていた2011~2013年のような黄金期から考えれば実力的に下がっている。
しかし、女子サッカー界に現れた超ビッグクラブや、澤穂希という存在は、日本の女子サッカー全体に強い影響力があった。現在のINACの苦戦ぶりは、INAC神戸自身が弱体化したのではなく、INAC神戸以外のクラブがINAC神戸に引き上げられて競争力の高いリーグとなった証拠だ。
この日の新潟Lも引いて守るのではなく、強度の高いプレッシングでボールを奪いに行った。その機能性や連動性は攻撃面でも活きていた。23分には右SBの左山桃子のクロスを左SBの小島美玖がゴール前に飛び込んでヘディングで狙う決定機も作った。両SBが同時に攻撃参加してフィニッシュに絡むのは、単発な仕掛けで出来るような事ではない。
前線でボールが収まらずに苦しい展開になれば、なでしこジャパンのMF上尾野辺めぐみを左サイドMFから前線へ配置転換して起点を作らせた。上尾野辺の柔らかいボールタッチや独特のパスセンスはなでしこジャパンの主力選手にもない類まれな才能だ。チームが押し込まれた時は彼女を前線で、ボールが落ち着くとMFでプレーさせ、彼女のポテンシャルを最大限チームに還元する戦い方は浸透している。新潟Lは今季のなでしこリーグでINAC神戸を上回る2位で終えていたのだ。