簡単に言えば、トルシエ時代のように戦術で勝とうとするのではなく、選手の能力を伸ばす事で、それがそのままチーム力の向上に繋がるというクラマーやオフト時代の考え方。オフトもオシムも、一応ジーコも、日本の国内リーグでの指導歴やプレー歴が豊富だった事もあり、日本人の長所と短所を理解していた事は大きな強みだったはず。ジーコ時代は確かに完全に失敗と言えるものの、日本代表が華やかに見える選手選考はそれで楽しみもあった。クラマー氏は教師のような指導をしないといけない時代だったとはいえ、日本にサッカーを普及する活動にも大きく貢献したために日本を深く理解していたと言えます。
基本的には日本人は論理的に指導されて、1つ1つ理解して技術や戦術を体得したいはずで、それは1995~1996年当時の名古屋グランパスエイトで指揮を執った現アーセナルのアーセン・ヴェンゲル監督の指導法もこのタイプ。オシム時代のジェフユナイテッド市原(現・千葉)の選手、ヴェンゲルが指導した名古屋の選手やアーセナルの選手に共通するのは、他クラブに移籍してもあまり成功できない事。それだけオシムやヴェンゲルのチームの偉大さが分かるという物差しでは、どちらも大黒柱級の主力選手が抜けても成績を落とすような事がないのも共通しています。
上記のような論理的な指導からチーム作りをした歴代監督が揃う中、トルシエは異端の存在。彼は戦術で勝たせようとしていたタイプだったものの、上記のようにユース代表監督も兼任する事で必然的に多くの日本人(選手やコーチだけでなく)や日本文化と触れ合ったはず。
また、歴代の日本代表の中で彼の時代が最も成功していたのはナイジェリアU20ワールドユース(現・U20W杯)準優勝、シドニー五輪ベスト8、アジアカップレバノン大会優勝という確かな実績を残しているトルシエ。戦術で雁字搦めにしているとも見える反面、アジアカップレバノン大会の日本代表は「歴代で最も面白くて強かった」と未だに言われる理想的なチーム。中田英寿の招集が叶わなかったものの、名波浩と中村俊輔という世界レベルの新旧10番が共存していた事実からして、決してトルシエが選手を言いなりにするだけの小じんまりとした集団を作っていたわけでもありません。やはり、そこにはトルシエが日本人を深く理解していた事が活きていたと考えるのが自然な流れでしょう。
明らかにトルシエタイプのハリルホジッチは?
日本協会が過去に代表監督のオファーを出した事が公になっているヴェンゲルやマヌエル・ペジェグリー二(現・マンチェスター・シティ監督)も含めて、やはり日本協会も論理的な指導をしてくれる風貌的には教授タイプの落ち着いた監督を求めているはず。
しかし、最も成功していたのはトルシエ時代である事実や、ブラジルW杯惨敗、ハビエル・アギーレ監督の八百長問題からの早期契約解除もあって、スパルタ方式で明らかにトルシエタイプのハリルホジッチがやって来た。
親善試合で勝っただけで、W杯予選(それも3次予選でシンガポール相手のホーム戦)でも勝てず、東アジアカップも未勝利の最下位。やっとW杯予選でカンボジアとアフガニスタンに勝っただけで、「どうだ。やってやったぞ」というような表情で豪語されても・・・。
Jリーグの日程に不満を述べ、「代表チームの練習時間が確保されていない」というハリルホジッチ監督。それはどこのW杯出場常連国でも当たり前。日本もフランスW杯に出場する前はJリーグがある日程でも代表戦が行われるために、Jクラブは代表選手を派遣していたものの、それは未だW杯に出場していないか、決勝トーナメント進出もした事がない国がする強化策。アルジェリアではそれが通じるかもしれませんが、日本ではJリーグを強化しない事にはどうにもならず、そもそも海外組が中心の現代表では彼が主張する「時間」は規定上絶対に作る事ができません。
そもそも1人の代表監督の存在だけで、その国のサッカーの戦術やスタイルがそこまで変えられるものなのか?そんな疑問と共に、次回は代表チームのサッカーについてスペイン代表を取り上げて論じたいと思います。