その次のリーグ戦との間に組み込まれた天皇杯準決勝は開催地が東京の味の素スタジアムという事や、リーグ戦佳境の中での冬の平日ナイターという酷い日程によりガンバだけでなく、他クラブも含めて天皇杯の権威が問われる複雑極まりない準決勝も、相手の清水が直近のリーグ戦から9人の先発メンバーの変更があった中、ガンバは3人の変更のみに止め、ヤングエスパルス相手に一時は同点にされるも5-2で快勝して決勝進出。さらに、天皇杯から中2日で迎えた神戸戦にも勝利し、同時刻で開始された首位・浦和が終了間際に追いつかれ事で、ガンバはリーグ戦で今季初の首位に浮上して最終節を迎える運びに。
その最終節の相手となったのは早々とJ2降格が決定していた徳島。しかし、ベストメンバーで挑んだガンバはホームでの初勝利と相手に優勝をさせない気持ちを振り絞って徹底した守備の集中力を保つ徳島を全く崩せずにドロー。それでも、他会場で浦和と鹿島が敗れるという拍子抜けのサプライズで優勝。試合終盤は他会場の動向を耳にしつつ試合を運ぶ姿勢を見せるなどの柔軟性のあるチームになった事がナビスコに続く2冠目を獲得できた要因となったと言えるでしょう。
そして、3冠目を目指すこの日の天皇杯決勝。徳島戦で負傷した右SB米倉恒貴、MF阿部浩之が欠場する中、ジェソクが右SBに回り、右サイドMFにはMF倉田秋が入って2カ所の変更でスタートしました☆
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【モンテディオ山形】ガンバ以上の奇跡を起こすチーム~川西の活躍以外でもガンバサポに人気のあるチーム
J2降格から3年目。過去2年は共にJ2で10位に甘んじていたものの、昨季のリーグ第41節でガンバがJ2優勝を決めた試合(3-2でガンバ勝利)のように、J1から降格した時のような得点力不足は解消され、特にMF陣のテクニックを活かした攻撃的なサッカーが披露されていました。実はそんな攻撃的なサッカーを見せる彼等にガンバサポーターの方々の中でも”山形ファン”になっている人が多くおられました。しかし、その得点力の大幅な向上と共に、チーム伝統の堅守には逆にヒビが入ってしまった模様。それが一昨年は首位で前半戦を折り返しながらも2年連続で最終的にはJ1昇格プレーオフ圏内にも入れなかった敗因に。
そこで今季から、以前に柏レイソルとコンサドーレ札幌でJ1昇格を果たした“昇格請負人”にして、19年前にも山形で指揮を執った石崎信弘氏が監督に復帰。最前線からの守備やセカンドボール、ボール際の競り合いを戦えるチームにする勝負強さを植え付けました。
また、MF陣が得点力も含めてチームのプライオリティーが高かった編成の中で、今季は柏や東京ヴェルディで圧倒的な個人技で得点を量産していたFWディエゴを補強。“違い”を見せられるタレントの加入により、ある程度はソリッドな守備に注力できる余裕も生まれました。同時に秋葉勝やロメロ・フランクのようなテクニックやミドルシュートなど攻撃面に特徴のあるMF陣の構成から、松岡亮輔や宮坂政樹のような運動量が豊富な守備的MFが重宝される事に。その甲斐あって守備は安定したものの、今度は得点力が伸び悩む今季の前半戦。
また、元来はセカンドトップタイプのディエゴの起用法はなかなか定まらず。リーグ戦でも連勝が全くない中で安定した成績が残せずに後半戦に突入していました。
その中で、秋頃になってからシステムを[4-2-3-1]から[3-4-2-1]へ変更。最前線にディエゴを配置し、2シャドーには1トップとしては不合格の烙印を押された川西翔太、それまではMFへコンバートされていた山崎雅人という元ガンバ戦士のFW2人が固定され、ディエゴとのトライアングルが攻守共に”機能美”とも評せる連動性を見せ、10戦7勝という連勝街道に入って一気に順位をジャンプアップしてリーグ戦でもプレーオフ圏内の6位フィニッシュ。
その過程に置いて並行して行われていた天皇杯でも彼等は結果を残しました。J1昇格プレーオフが直後に控えているにも関わらず、大幅にメンバーを変更したジェフ千葉に対して、天皇杯の準決勝でも主力メンバーで戦った末の勝利に続き、昇格プレーオフの準決勝では追加タイムにGK山岸範宏がCKをヘッドで決めるという劇的な勝利で決勝進出。続くプレーオフ決勝では天皇杯準決勝でも対戦した千葉相手に今季最大の武器と言えた宮坂のセットプレーからの流れで決勝点を奪い、“山の神”と言われた今季途中加入ながら主将を託されたGK山岸の好守で守り切り、4年ぶりのJ1昇格を勝ち取るドラマを見せました。
そして、迎えたクラブ史上初の天皇杯決勝。初タイトルもかかるこの試合ではガンバからのレンタル移籍のためにFW川西が出場停止。加えて累積警告で左ウイングバックのキム・ボムヨンも出場停止となり、それぞれの代役としては川西と青森山田高校で全国制覇を経験したMFロメロ・フランクと伊東俊の青森山田コンビが入ってスタートしました☆
【マッチレポート】キックオフから奇襲を仕掛ける山形~勝利からの逆算されたアプローチを見せるガンバ
3冠を目指すガンバはコレが今季51試合目、山形は50試合目という過密日程をこなしてきた両チームによる決勝。試合の方はキックオフから緊張感というよりも、山形が最前線からハイプレスを敢行。2列目・3列目も連動したプレッシングで国内3冠を狙うJリーグのトップに君臨するガンバの出鼻をくじかせようと押し込む奇襲攻撃を仕掛けて来ました。そして、開始直後にオフサイドの判定ながらも電光石火の先制点か、と思わせるあわやの場面も作って良い入りを見せたのも山形でした。
しかし・・・、山形側からすれば“事故のような”と表現したくなるゴールが生まれました。
4分、自陣深くからのガンバのFK。GK東口が前線へ蹴ったロングボールをパトリックが落とし、ボールの落下地点を読んだ宇佐美が胸トラップから強烈なボレーシュート。コレはGK山岸に弾かれるも、そのこぼれ球に対して、エリア外からシュートした宇佐美自身が自ら飛び込んで反応し、冷静に流し込んでガンバが先制。1-0。
それでも試合の主導権を握る山形は直後の5分に、中盤をすり抜けたロメロ・フランクが左サイドからエリア内に侵入。角度がないながらもフリーで狙った右足シュートを放つ、GK東口を強襲するチャンスを作るなど、開始15分頃まではガンバのシュートを得点に繋がった宇佐美の2本に抑えながら、山形が優勢に試合を運ぶ。
ただ、それはガンバが最終的な“勝利”から逆算したアプローチだったのでしょう。早々と先制点を挙げた事でその傾向はさらに強まり、攻撃は個人技に長けた2トップに任せるカウンターに絞り、リスクを回避して山形の奇襲を落ち着かせる試合運びへシフト。16分、山形の中盤でのパスワークが続く中で、大森が激しいプレスで奪ったボールを即座に前線の宇佐美にスルーパス。DF1人を置き去りにして放った宇佐美の左足シュートは外れたものの、コレこそが狙いそのもののプレーだったと思います。
そして22分でした。山形の右CKからのクリアボールを、宇佐美が相手と身体を入れ替えながらマイボールにすると、1人で相手陣内まで持ち込み、並走するDFを交わして、自陣ぺナルティエリアからスプリントしてきたパトリックへラストパス。パトリックの裏をさらに倉田が自陣深くからロングランスプリントする動きが相手DFのマークを剥がすアシストとなり、パトリックは“ほぼフリー”でシュート体勢に。狙い済ました右足シュートが決まり2-0。
2点リードするとカウンター狙いの展開をさらに強め、自陣に守備ブロックを築くガンバ。それを打開しようと、山形FWディエゴがクサビのパスを受け、DF岩下のマークを抑え込みながらターンしての強引な左足シュートがガンバゴールを襲うものの、序盤の奇襲攻撃ほどの迫力ある攻めは停滞。
逆に30分、宇佐美のサイドチェンジから、右サイドで受けた倉田がハーフボレーで狙ったシュートがGK山岸の好守を強いるなど、ゲーム内容とは裏腹に決定的な場面を作るのはガンバになる傾向になっていきました。
J1とJ2を合わせて順位を付けると、ガンバは1位で、J2で6位の山形は24位。この差に対して、「実力差を示さないといけない」との長谷川健太監督の言葉は、何も圧倒的に押し込んでゲームを支配し続けるという考えではなく、勝利する事を最優先にしたアプローチでした。
そんな前半はガンバが2点リードで折り返しました。