現地でイラクやシリアからのクルド人難民が、両国の間で立ち往生を強いられていると耳にしたのは二年後の21年秋。ベラルーシ政府は観光ビザを簡単に発行していた。イラクやシリアのパスポートでは、EU諸国への入国は厳しい。トルコを抜けるよりも、ベラルーシのミンスクまでは空路移動、そこからポーランド~西欧への国境を目指す渡航者が急増していると聞いた時点でこの観光ビザのバーゲンセールは《胡散臭い》と感じた。
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’20年10月UEFAチャンピオンズリーグGroupA。ザルツブルクでのロコモティフ·モスクワ戦、残り15分同点に追い付かれたホームチームは、奥川雅也:Masaya Okugawa【1996年4月14日生】をピッチに。同点ゴールで貴重な勝ち点1をもたらしたのは6分前に投入されたヴィタリー·リサコヴィチ:Vitaliy Lisakovich【1998年2月8日生】。ベラルーシ代表の若きエースストライカーに初めてレンズを向けたのは’21年10月3日モスクワでのロストフ戦。ミンスクで生まれクロアチアのディナモ·ザグレブのユースで揉まれた逸材。現在はルビン·カザンからバルチカ·カリーニングラードに貸し出されているが負傷回復待ち。
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アンドレイ·クリモヴィッチ:Andrey Klimovich【1988年8月27日生】もミンスクに生まれエネルヘティクのユース育ち。2017年にはFKミンスクからディナモに移籍。19年オレンブルグ加入でロシア·プレミアが主戦場となる。
そのクリモヴィッチはロシア二部クバン·クラスノダールを6月に退団し現在はロシア三部クラブヴォルガ·ウリヤノフスクに。経験がモノを言うゴールキーパー。現在35歳のクリモビッチがもしEU国籍を保持していたなら中堅国二部レベルからのオファーも有り得ただろう。
ロシアのウクライ侵攻を経て、昨年再びポーランド国境を違法に越えようとする人たちが急増した状況をベラルーシからの《攻撃》と、警戒を強めるポーランド政府。ウクライナからの戦争難民を積極的に受け入れる一方で日本円に換算すると490億円の予算を費やし鉄の壁を設けた。不法移民とされる人々の母国は十年以上前から内戦が続いている。
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ポーランドの検問で待たされてる間、Aさんは携帯の翻訳サイトに文字を入力している。見せてくれた文字は、「肉」?、するとカバンからアルミホイールに包まれていたベラルーシ風のミートボールを出して半分わけてくれた。もしかすると彼は最後に出逢ったベラルーシ人になるかもしれない。彼のおかげで嫌いになるどころか、ベラルーシ人について好意を抱いて人に話せる。
駅から車が見えなくなるまで手を振り続け視界から消えてからは深々と頭を下げた。ワルシャワ行きの列車が来るのは四時間後。とりあえずビールを注文して新たなスケジュールを考えるとするか。[第100話了]
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⏹️写真/テキスト:横澤悦孝 ⏹️モデル:中村美香子