この日、アウェイで強豪アーセナルに対して引き分けて勝点を38に伸ばしたサンダランドは来季のプレミアリーグ残留が決定。第29節で残留争いの直接対決となったアストン・ヴィラ相手にホームで0-4の大敗後、前任のグスタボ・ポジェ監督が解任され、「手遅れ、遅すぎる」と揶揄された監督交代でしたが、アドフォカ―ト監督が指揮した8試合で3勝3分2敗。ここ5戦無敗で絶望視されていた残留を手繰り寄せました。
監督交代の時期が遅かったのかどうかは分かりませんが、アドフォカ―トの手腕は称賛されるべきでしょう。オランダ流のトータル・フットボール志向で攻撃的なチーム作りにより、近年では2008年にロシアのゼニト・サンクトペテルブルクでUEFAカップ(現ヨーロッパリーグ)優勝という快挙を成し遂げたオランダ人指揮官。EURO2008でロシア代表のベスト4進出にも大きく貢献したアンドレイ・アルシャビンという稀有なタレントを擁した攻撃的なサッカーでゼニトを国際レベルで戦えるレベルにまで仕立て上げた印象とは違い、プレミアリーグでは中堅以下に属するサンダランドでは現実策を採った模様。
ただ、もともと攻撃陣には近年プレミアリーグでシーズン2桁ゴールを記録した実績を持つグレアムやフレッチャーというストライカー、近年までイングランド代表にも名を連ねていたジャーメイン・デフォーやアダム・ジョンソンがいるため、前線は孤立しがちでも個でフィニッシュに持ち込めたり、キープできる選手がいました。そのため、CBにスピードに限りを見せるジョン・オシェイ等がいて不安定な部分があるため、前線の選手にプレスバックを要求。本職ではないサイドを任されている元イングランド代表FWデフォーが献身的に走る姿はトッテナム・ホットスパー時代は全く観た事がありません。
何が起きたのか?
“アドフォカ―ト・マジック”と言えばそれまでですが、重心が低いだけだった守備がチーム全体に粘り強い守備意識が浸透。
その上で、ウルグアイ代表として2011のコパアメリカ優勝に貢献したDFセバスティアン・コアテスという大成はしていないものの、まだまだ将来が有望なセンターバックを抜擢。攻撃志向の監督として有名な指揮官でしたが、これで5戦無敗(2勝3分)と共に3試合連続完封。守備に重点を置いて失点を最小限に留める事でしぶとく勝点をかすめ取り、残留というミッションをコンプリートしました。
チームは来季のプレミアリーグに残留できるため、クラブはアドフォカ―ト監督を“残留”させたいでしょうが、当のオランダ人指揮官は、「ここでの仕事は今季限りのワンポイント。これ以上長くいたら妻に離婚届を出されます」と言って、もともとシーズン終了までの契約だったために退任する意向。自身の哲学に遭うクラブでもないのは明白ですが、オランダ人のサッカー観は攻撃的でありながらも、実はサイド攻撃はウイングの個人技任せにする事で他のエリアに人数を割くというやり方を持ち合わせている監督も多く、アドフォカートやフース・ヒディング(元・韓国代表や豪州代表の監督としても有名)はこの例。彼等が国外でも成功しているのはこういう“実利型の攻撃サッカー”をそれも短期間で植えつけられるからなのだ、と改めて感じました。
最近オランダでサッカーを現地観戦してきた筆者にとって、アドフォーカートやマンチェスター・ユナイテッドのルイス・ファン・ハール、サウサンプトンのロナルト・クーマンとオランダ人監督がプレミアリーグで評価されているのは嬉しく感じました。