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アーセナルで就任20年目のヴェンゲル監督が作った独立国家『FOOTPIA』

オーケストラ指揮者としてのヴェンゲルとモウリーニョの違い

 サッカークラブの監督を音楽団の指揮者と喩えるならば、就任20年目を迎えているアーセナルのアーセン・ヴェンゲル監督とジョゼ・モウリーニョ(前チェルシー)監督がそれぞれ指揮する楽団の音楽は全く違うものなのだろうと思う。オーケストラの楽団で演奏者の数が多いのは、圧倒的にヴァイオリンを始めとする弦楽器だ。サッカーに喩えるとMFになるだろう。そして、そのヴァイオリンは同じ楽器だったとしても、「2つとして同じ音(音色)を出すモノはない」と言われるほど繊細な楽器だ。1本1本のヴァイオリンが奏でる音の伸び方や響き方が違うのだ。

 ヴェンゲル監督はヴァイオリンの音色に敏感な指揮者だ。そこに最も拘りと美学を求めている。型番A-001のヴァイオリン(ポジション)でしか出せない音を、セスク・ファブレガスという最高級のテクニックを誇るヴァイオリニストに弾かせたい譜面を用意し、尚且つアドリブ演奏も許可する。そんな監督だ。理想の音やハーモニーを奏でる事に神経質な部分がある指揮者・ヴェンゲルだが、演奏者・セスクがいなくなったからと言って、同じ事を新任のアーロン・ラムジーに託す事はない。ラムジーには型番A-002のヴァイオリンを買い与えて、彼とその楽器に合う譜面に書き換えるのだ。それが指導者としての矜持なのだろう。

 そんな繊細な楽器を扱うヴァイオリ二ストに、モウリーニョ監督は、「譜面の通りに弾けば良い」と言うだろう。新任のヴァイオリニストにも前任者のパートをそのまま与える指揮者だと思う。ただ、オーケストラの指揮者としては、ヴァイオリンだけに拘ってはいられない。今どの楽器が新たに欲しいか?を察知する能力が必要だ。モウリーニョはこちらの部分で優れている指揮者だ。

 オーケストラの最後方でどっしりと構えるパーカッションやドラムスのような打楽器は、GKやセンターバックに見える。演奏中にほとんど登場して来ないけど、非常に重要な場面でキメル(決める?)シンバルは、絶対的なストライカーに見えるはずだ。ぺトル・ツェフ、ジョン・テリー、ディディエ・ドログバ、ディエゴ・コスタetc…。指揮者・モウリーニョは、要所を占める楽器のエキスパートを見極める感覚が抜群だ。

 逆に、指揮者・ヴェンゲルはハーモニーの繊細さや微妙な強弱というアクセントのような部分以外にも、その時の感情やその場の臨場感を個性が出やすいヴァイオリンで表現したいのだ。パーカッションやシンバル奏者のキャスティングに時間もかけてられないわけだ。もしかしたらヴェンゲル監督は、パーカションやシンバルにもヴァイオリンのように聴こえる音(ビルドアップやパスワークに繋がる華麗なポストプレー)を求めているのかもしれない。

“FOOTPIA”(FOOTBALL+UTOPIA)としてのアーセナル

 “ヴェンゲル楽団”に入って来たばかりのナイジェリア代表FWアレックス・イウォビはトライアングルくらいしか鳴らせないし、ジョエル・キャンベルはまだまだヴァイオリンを弾くパートが少ない。でも1年程前までのトライアングル担当だったエクトル・ベジェリンは今や立派なチェロ奏者になった。でも、ノース・ロンドン・ダービーではフランシス・コクランから楽器を取り上げないといけなかったりした楽団だったし、シンバル担当のオリヴィエ・ジルーはずっとシンバルを鳴らしていない。

 それでも、筆者は独自の美学を持つヴェンゲル楽団のアーセナルを応援したい。FAカップではハル・シティとの再試合を制して準々決勝にも進出し、前人未到の3連覇も懸かっているんだから。そもそも今時こんな喜怒哀楽全てを感じさせるロマンチックなチームって他にないだろう。

 おそらく、ヴェンゲル監督は“FOOTPIA”(フットピア/FOOTBALL(サッカー)とUTOPIA(楽園)の造語)を作り上げたのだ。

 だから、筆者はアーセナルのサッカーを観ながら夢を見るのだ。