従来の最終ラインからの緻密なパスワークだけでなく、佐藤の投入直後はスペースがあれば前線にパスを入れていく戦法を採った広島。そして、その甲斐あってセットプレーを獲得していく。
そして64分、柴崎の右コーナーキックがニアを越え、塩谷司が火を噴く豪快な右足ジャンピングボレーを突き刺して同点に。さらに69分には前からのプレスで相手の日本代表GK西川周作のフィードキックを最終ラインの塩谷が前に出て奪い、そのまま縦パスを繋いでいく。ウタカのポストから柴崎がエリア内でシュートしたボールを枠に嫌われてたが、コレにゴール前まで詰めて来ていた塩谷が4バックのCBとは思えない動き出しと得点力で押し込み、3-2と一気に逆転。
さらに83分には早いリスタートで再開した浦和の隙を見逃さなかった。途中出場した日本代表MF柏木陽介のバックパスを“忍術”のような素早い動きで掻っ攫い、そのままGKを交わして左足で流し込む。佐藤寿人だった。
佐藤寿人「俺はまだやれる!」
最終的には4-2!昨年後半のように“紫”の逆襲を予感させる逆転勝利だった。確実に大きなターニングポイントとなる試合になった。
導いたのは采配が冴えわたった森保監督。4人の主力選手の長期離脱、青山の負傷交代までありながら、勝利を掴み取りに行った強気の采配が光り輝いた。
だが、全てを変えたのは佐藤寿人だった。リーグ戦では第3節以来、13試合連続で先発出場がない。2014年夏以来のベンチ外も経験した。ここ3試合も出番がなかった。リーグ戦での得点は第2節で奪った「(一時は)J1通算得点記録最多弾」となる1得点のみ。
ピッチに立つ佐藤寿人という小柄なFWに対して、ホームのエディオン・スタジアム広島のサポーターが惜しみない大きな声援を送り続けた。これまで幾度となくチームを救い、数々の栄冠をもたらしてくれたレジェンドを、今度はサポーターが救うような応援はピッチとスタンドを一体とした。
サッカーの技術的、戦術的な部分でも足りない部分を補った。これまでは得点ランクトップとはいえ、ウタカは自身の技術を活かすために中盤に引いて足下でパスを受ける事が多く、それ故にゴール前に人数が少なくなる。特にニアサイドに突っ込むFWがいないのだ。それが攻撃に迫力や分厚さをもたらせない理由だった。
佐藤は投入直後から果敢にニアサイドに突っ込んだ。決してクロスが合わなくても、ファーサイドに流れたボールをウタカ等がフリーでシュートを狙う好機も多く出て来た。それまで浦和の守備陣は崩されても、脳内が錯乱しているようではなかったが、佐藤の”ニアサイドワーク”により、浦和は肉体的にも精神的にも追い詰められた。
そんな佐藤寿人という異能のストライカーであり、異能の人間力を持つサッカー選手は、「俺はまだやれる!」と宣言した。
この日の逆転勝利で4位に浮上し、チャンピオンシップ出場の条件となる年間3位の浦和とは勝点差1となった。十分に射程圏内に入った広島の選手、監督、スタッフ、サポーターの誰もが、「俺たちはまだやれる!」と言っている!