23〗Stadion Lokomotiv / ソフィア

ハスコヴォは人口八万人程度ながら、’03年にイエスの母マリア像を青年の丘に建造。高さ三十二メートルの聖母像はギネスブックで世界記録として認定されているので立ち寄ることに。ライトアップされたそのお姿にアルコールと煩悩で穢れた心も清められる。ギリシャ東端のイスマルス山の西麓にある街がマロネイア。オスマン帝国時代イスタンブールよりも前の首都エディルネまでは180km、ハスコヴォからは150kmの距離に位置するトラキアの古代都市。
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紀元前にホメロス:Hómērosが書いた叙事詩『オデュッセイア』。オデュッセウス達はトロイから帰国する際、キコネス人の街イスマロスに立ち寄り町を略奪する暴挙に。男性は問答無用の皆殺し。女性を分け合う非道の振舞。オデュッセウスの命令を無視して宴会で盛り上がる。この時オデュッセウスはアポロンの司祭であるマロンとその家族を助け、受け取ったワインを使ってサイクロプスのポリュフェモスを退治したとされる昔話。マロンは作品によってはディオニュソスの息子の設定にもなるがワインと深く結びついているのは変わらず。ブルガリア南部のトラキア· ヴァレーはワインの名産地として知られるがその歴史は紀元前四~五千年前まで遡る。土着品種が多過ぎて、とてもではないが滞在中に飲みきれるわけがない。
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ドイツとブルガリアは地理的にはチェコ、ハンガリー、ルーマニア、セルビアと各国を挟んでおり、距離こそ離れてはいるのだが二十世紀にオーストリア=ハンガリー帝国やドイツなどドイツ語圏から産業が移入されると同時に、文化面においても受けた影響はけして小さくはない。ブルガリアのビール醸造にもチェコや本場ドイツの知識と技術が用いられており各地の地ビールが美味いのも当然。考えてみればブルガリアにはドイツの同盟国として第一次、二次の両大戦で連敗している希少な国。
最後の写真はハスコヴォ行きの列車に乗ったソフィアの中央駅。ワインやビールを飲みながらでも都市間を移動できるのだから、鉄道会社と勤務する職員の皆さまには深く感謝しなければならない。〖第二十三話了〗
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⏹️写真/テキスト:横澤悦孝  ⏹️モデル:Emilia