聞くと行くでは大違い 十年の歳月は人を待たず
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写真から十年後、高校一年の夏休みを利用して息子をイタリアでの仕事に同行させたのは’16年の夏。通称ダ·ヴィンチ空港、正式にはフィウミチーノ空港に着陸。テルミニ駅から徒歩十分もかからない安宿を手配。そこからエンポリ、ヴェネツィア、ミラノはグレードアップするのだが、ローマの部屋は自分もこんな汚い部屋は利用した事がない襤褸宿にした。駅の南側は小便の悪臭がひどい。永遠の都と美化される表とは別に裏の顔を持つ都市。アウェ-の洗礼をあえて浴びさせることにしたのだが、少々やりす過ぎてしまい些か心苦しい。間もなく十年になるが、あれほど汚い宿に出逢ってはいない。テレビや新聞などメディアは事実を伝えてくれる。しかしそれは一方向から見た事実や、自分達の都合の良い事実だけを伝える。事実=真実ではない。ましてや偽りが無検閲で飛び交うのがネットの世界。自分の眼で見て自分で感じなければ真実にはたどり着けないと伝えたかったのだろう。それにしても欧州を旅して鼻が曲がるほどの尿臭ランキングならば、第九話で紹介したマドリッドのスタジアムと、ローマのテルミニ駅周辺のツ-トップで間違いないから苦笑する。既に二十代半ばの息子に伝えることはないが、自分に言い聞かせるならば「歳月は人を待たず」。
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三月八日アスト-リの葬儀には数千人の弔問客がサンタ·クローチェ聖堂の外に集まり、棺が式場を去る際にはセリエAの各クラブの旗が後ろに掲げられた。キャプテンマークの腕章を引き継いだミラン·バデリ:Milan Badelj【1989年2月25日生】は弔辞の中で、「僕らの心は共にある。これから成長していく君の娘に寄り添い、父親がどんな人物だったかを伝えていく」と述べた。当時二歳だった愛娘も来年には十歳の誕生日を迎える。〖第三十話了〗
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⏹️写真/テキスト:横澤悦孝