但しこの規則、裏技が無いわけでもない。TPO=第三者保有禁止発令から四ヵ月後、ザハヴィ氏がムスクロンの株式90%を取得すると、マルタのマネジメント会社リアン·スポーツの株式を保有するスイス人を財務責任者に任命した。その一方でザハヴィ氏は自身が所有するスリヴァ·トレーディング·リミテッド(2012年創業:本社キプロス)社に、アポロンリマソ-ルの株式16%を取得している。ここでリアン·スポーツが仲介を務めた事例として16年2月1にアポロンからポルトガルの強豪ベンフィカへ移籍したルカ·ヨヴィッチ:Luka Jović【1997年12月23日生】のケ-スを取り上げてみたい。
◇◇◇◇◇
ムスクロンで見掛けないムスクロン所属の選手たち
◇◇◇◇◇
ツルヴェナ·ズヴェズダでプレ-していた俊英をリスボンへ売却さした価格は665万€。キプロスのクラブでプレーした経験どころか、キプロスに足を踏み入れてもいない選手でアポロンの懐には465万€が入るボロ儲け。実はツルヴェナ·ズヴェズダ会長の義理の弟にあたる元パルチザン·のゴールキーパー、ニコラ·ダムヤナツ:Nikola Damjanac【1971年10月27日生】もリアン·スポーツの経営に関わる人物だった。同年ベルギーのルーヴェン、ウェスターロー、シント=トロイデンが共同で苦情を申し立てた。FIFAの規則では、代理人がクラブ役員を兼任することも禁じられている。ベルギーフットボ-ル協会とベルギースポーツ仲裁裁判所に虚偽の書類でも出していなければクラブ役員の許可が下りるわけなどない。結果辞任を確認して協会及び委員会はムスクロンの2016-17シーズンの出場こそ認めても一件落着とはならない。この後もムスクロンはゴーストプレ-ヤ-方式、クラブの簑をかぶった代理人の会社が売買に暗躍し、驚異的に資金を増やし続ける。クロアチアU19代表(当時)のマルコ·ハヌリャク:Marko Hanuljak【2000年1月31日】は2018年ムスクロン加入から十日後に百五十万€でフィオレンティーナへと売却されている。
◇◇◇◇◇

◆◆◆◆◆
FIFAからの「代理人がクラブチームを所有するのはあかん」との宣告に対してザハヴィ氏は自分の所有する株式を甥っ子が経営する別のマルタの会社に売却した。問題は金額。ジュピラービールの小瓶なら五本は買える十€でクラブの経営権を譲る茶番。ムスクロンは世界中から才能ある若者を入団させることで、保有選手が四十人にま膨れ上がったが練習グラウンドで姿を見ることはない。
◇◇◇◇◇
タイのエナジ-ドリンク王から現ボルド-&ボアビスタオ-ナ-へ。
◇◇◇◇◇
結局ザハヴィ氏は2015年から20年にかけて、ベルギー検察局から詐欺やマネーロンダリングなど複数の容疑で告発される。ブリュッセルの捜査判事よって度々起訴されたのは、さすがに疲れたのか’18年にクラブ株式の90%を長年に渡り協働してきたタイの実業家パイロイ·ピェンポンサント:Pairoj Piempongsant【1967年10月8日生】氏に譲ってしまう。
◇◇◇◇◇

◆◆◆◆◆
写真はアテネ市街で撮影。日本人が知らないだけで、イングランドリーグカップの冠スポンサーも務めるカラバオ社の欧州における人気知名度は驚くほど高い。タイの栄養ドリンク大手企業は国内ビール市場に本格参入。大手財系二社に挑戦状を叩きつけている。
◇◇◇◇◇
◆◆◆◆◆
そして2020年5月にクラブの経営を引き継いだのは元リールOSCオ-ナ-のジェラール·ロペス:Gérard Lopez【1971年12月27日】。この三ヶ月後にはボルトガルのボアビスタ、翌’21年からはボルド-のオ-ナ-に。ムスクロンが消滅してもこの二クラブで満足している様子。’21年に二部へと降格したムスクロンは六年の間に五回もプロライセンスの再申請を余儀なくされた。ロペス氏に買収された当時クラブは、文書偽造とその使用等、詐欺罪の疑いで告発されている。2015年から18年にかけてライセンス取得に関するベルギー警察からの容疑は個人ではなくクラブに対してのもの。とんでもない負の遺産を引き継いでしまったロべス氏に愛想をつかされての破綻は必然だったのかもしれない。