ミラン、ユヴェントスをはじめ、80年~90年代に栄華を築いたセリエA。しかし近年はリーガ・エスパニョーラやブンデスリーガに人気をかっさらわれ、イタリアサッカー界は危機的状況にある。
UEFAが定めるカントリーランキングでも4位と順位を下げ、現在はCLに3チームしか送り込めない状態だ(リーグ戦上位2チーム+CLプレーオフを勝ち抜いた1チーム)。
ところが今季はCLベスト4にユヴェントス、ELベスト4にナポリとフィオレンティーナが進出し、凋落したはずのセリエA勢が奮闘しているのだ。世界の流行から乗り遅れていたイタリアサッカーにどのような変化があったのだろうか。
☆鎖国文化による復権
イタリア勢がCLを制したのは09-10シーズンのインテルが最後で、それほどブランクがある訳でもない。90年代~00年初頭にかけては毎年のようにファイナルへとチームを送り込んでいたので、そこから考えるとやや寂しいのかもしれないが、結果だけに目を当てればセリエAは欧州の舞台で結果を残している。
気がかりなのは、09-10シーズン以降ベスト4以上に駒を進めたチームが1つも無いという事だ。ミランやユヴェントス、フィオレンティーナなどがCL決勝トーナメントには進出するものの、ベスト8が限界となっているのだ。
やはりバルサ、レアルのスペイン勢、プレミアのビッグ4には歯が立たず、サッカーの質そのものが違う。プレミアの堅守速攻、リーガのポゼッションが世界を席巻していく中、セリエAはただベテランに頼る年寄りサッカーを続けていたのだ。
「セリエAは流行に乗れなかった」という認識は世界に広がり、ついにUEFAカントリーランキングでもイタリアは4位に落ちてしまった。これによってCLには最大で3チームしか送り込む事が出来なくなり、今まで守り続けたトップ3の座をスペイン、イングランド、ドイツに明け渡したのである。
当然セリエAにワールドクラスの選手が集まる事はなく、タレントの競争力でもトップ3に大きく劣る。元より若手を育てる風土が無いリーグだったため、良質な若手を育てる事も出来ず、キャリアの終わりに差し掛かった過去の名選手ばかりが集まるリーグになってしまったのだ。
ただ、セリエAは面白い選択をした。世界の流行に合わせようとするのではなく、独自の戦い方を編み出していったのだ。もはや「鎖国」状態であり、国外の文化はほとんど取り込まれていない。流行とは正反対の道へ向かう選択をしたのである。
その結果、セリエAでは時代遅れと言われた3バックがブームとなった。ナポリのマッツァーリ、コンテのユヴェントス、モンテッラのフィオレンティーナなど3バックを使うチームが半数近くにも上り、時代に適応した3バックを完成させていったのだ。
当時世界ではモウリーニョらが提唱する4-2-3-1が主流であり、3バックではサイドに穴を作ってしまうとの批判があった。4バックじゃないと守り切れないといった風潮まであり、セリエAの3バック導入はかなり特殊だった。
ナポリやユヴェントスの3バックは守備時に5バックとなる事で、指摘されるサイドの穴をカバーしてみせた。しかしそれでは後方に人数が余る形になり、世界の流行でもあった高い位置からのプレスをかけにくくなってしまう。
しかしセリエAはハイプレスをする気など毛頭なく、自陣でブロックを固める守備型チームを次々と登場させた。いわばポゼッションへの反逆であり、世界が真似しない独特な文化を作り上げていったのだ。
今季のCLベスト4の顔ぶれを見ても、やはりユヴェントスは異質だ。ボールを保持して主導権を握る他の3チームに対し、ユヴェントスは準々決勝モナコ戦では相手にボールを持たせる事で主導権を握った。つまり固く守る事が彼らにとっての主導権であり、ポゼッションだけが主導権を握る術ではないという事だ。
さらにバルサやレアルのように縦に速い攻撃を仕掛ける訳でもない。ユヴェントスはじっくりとボールを保持しつつ、相手を崩す自分たちの形をはっきりと持っている。世界の流行からは逆行するかもしれないが、彼らは成熟しているチームといえる。
攻撃的な4-4-2、モナコ戦のように1点を守り切る試合で使用する3-5-2と、2つのスタイルを持っている事も大きな特徴だ。彼らが頑なに続けてきた独自の戦術が実を結ぼうとしているのだ。