こんなにも残酷な幕切れがあるのか?残留争いと昇格争いは通常のリーグ戦の中で行われるが、入替戦は当該チームのホーム&アウェイによる直接対決2試合に凝縮される。技術・フィジカル・戦術を越える1部残留、または1部昇格へ向けた全ての要素が網羅されたような濃密な入替戦だった。
『2018プレナスなでしこリーグ1部・2部入替戦』の第2節。今季のなでしこリーグ全日程を締め括るのは、なでしこリーグ1部を9位で終えた日体大FIELDS横浜と、同2部2位に躍進したニッパツ横浜FCシーガルズによる平成最後になるであろう、“横浜ダービー”となった。
初戦の振り返り~痛感した「1部と2部の差」
シーガルズの神野卓哉監督は入替戦を控えた取材で、「ウチは秘策もないし、できない」とし、就任から1年半かけて愚直に徹して来た球際の強さや攻守の切り替えの速さといったハードワークを武器に戦うことを宣言していた。
試合開始から15分間は前から徹底的にラッシュをかけて“奇襲攻撃”を仕掛けるのは、確かに“奇襲”かもしれないが、ハードワークを武器にする格下のチームが上のカテゴリーのチームと対戦する際に用いる常套手段である。ただし、神野監督はそこに1つだけ“策”を用いた。それが本来は2トップの1角としてプレーするFW高橋美夕紀(背番号15)の右サイドMFとしての先発起用だった。「すごく調子が良かったので、初めてさせるポジションだったが、『楽しい』とプレーしてくれた」(神野監督)
指揮官の期待通り、シーガルズは試合開始からチーム全体がアグレッシヴに前に出て戦う。そして開始8分、左サイドからのクロス。ファーポストに先発抜擢の高橋が飛び込んで合わせたシュートで大きな先制点を奪った。3バックを採用し、守備時は両ウイングバックを下げた5バック化で守る日体大に対して、2本のサイドチェンジを交えて揺さぶった狙い通りの得点だった。
しかし、セットプレーで14分に同点にされると、徐々に選手個々の技量で上回る日体大が試合の主導権を握り始め、後半は時間の経過と共にスタミナ切れも起こしたシーガルズとの“差”が鮮明になっていった。単純なスピードや試合展開や判断の早さ、ボールを受けた際のトラップからのワンタッチでの持ち運びなどには、「1部と2部の差」が大いにあるように感じさせられた。
そして55分、日体大の左WB今井裕里奈によるカットインからの豪快なミドルシュートが炸裂。逆転を許したシーガルズはアウェイゴール2点を失っての逆転負け。クラブ史上初の1部昇格へ向けて、第2節では1-0の勝利でも不十分となり、「2得点以上奪っての勝利」が昇格への条件という厳しい状況となった。
特に2部得点王の元日本代表FW大滝麻未がゴール前で仕事をする機会が皆無に近かったのが痛かった。彼女自身は密着マークに遭いながらもターンして前を向き、何とか攻撃の起点を作っていた。ボールタッチも少なくなかったのだが、彼女自身が“出し手”になっていたためだった。第2節へ向け、勝利はもちろん、まず2得点以上がノルマとなるシーガルズにとって、得点源となる「大滝の活かし方」が改めて問われる初戦だった。
大滝を最前線に固定し、5レーンを埋める緻密な攻撃
迎えた第2節。会場は横浜に本拠を置くチーム同士とあって、初戦のニッパツ三ツ沢球技場の隣にある三ツ沢公園陸上競技場が舞台となった。試合開始直前にやや強めの雨が降り始めた13時、今季のなでしこリーグ最後の試合がキックオフされた。(上記写真の背景になっている外観は初戦の球技場。)
試合開始1時間前にもらったメンバー表を見て意外だったのは、両チーム共に先発イレブンもベンチ入り選手も全て同じメンバー構成だったこと。特に2得点以上が昇格の条件となるシーガルズは、攻撃の単調さが顕著だっただけに意外だった。
しかし、試合が始まってから初戦とは違った変化はハッキリと見えた。オーソドックスな<4-4-2>で真っ向勝負し、キックオフから激しいラッシュをかけた初戦とは違い、この日は最前線に大滝1人を固定し、その下に右から高橋・中村みずき・佐藤渚を並べるようなイメージで、さらに高橋を内側に絞らせて右SBの大島瑞稀が攻撃参加。自陣にセットした守備で5バック化した日体大の壁に対して、シーガルズはピッチを縦に5分割した各レーンに選手を配置し、緻密な攻撃に着手した。
ただし、この日の前半は初戦で1点+アウェイゴールでリードしている日体大が両WBを完全に自陣に下げた<5-4-1>で慎重な戦いを選択していたこともあり、2試合を通して唯一となる所謂「入替戦の戦い」を象徴する硬い試合展開となった。
それでも、この試合の序盤からシーガルズは、左サイドMF佐藤渚の突破力が冴え、10分にはゴールライン際まで突破してからのクロスがゴールへ吸い込まれるというプレーも。(ゴールラインを割った判定でノーゴール)
そして、初戦でファン・サポーターの方々の投票で決まる『MIP賞』を受賞したMF小須田璃菜の幅広い運動量とボール奪取力は、勝負の後半にチームを押し上げる推進力となる。
起死回生!大滝の同点ゴールで意気上がるも残酷な幕切れ
後半、シーガルズはボランチの山本絵美が1列上がり、小須田をアンカーに残した<4-1-4-1>のような布陣に微修正。ここにSBの攻撃参加も加え、5バック化する日体大を崩しにかかる。また、この日は前半を省エネで抑えられたこともあり、スタミナ面の心配は感じさせなかった。
そして53分、佐藤が左サイドのスペースに出されたボールに粘り強く競ってDFを交わし、ゴール前に速いクロスを供給すると、中村が巧みなタッチで合わせて先制点。しかし、この段階では2試合合計2-2のアウェイゴール差で負けている状態だった。
しかし、勢いが出たシーガルズが攻勢に転じていた矢先だった。71分、自陣でのバックパスからGK新井翠がボールをかっさらわれ、日体大FW李誠雅に1-1(2試合合計3-2)となるゴールを許す。ミスからの失点だったが、守護神・新井は初戦を好守で2失点に凌ぎ、第2節へ望みを繋いだ最大の功労者。そんな彼女のミスにチームメートが応えた。