2007年5月、チームがJ2降格後も不安定な成績に終始する時期にチーム強化の責任者となった梶野氏は、現役時代に指導を受けたクルピ監督を10年ぶりに復帰させる事を決意した。チームには香川や柿谷など将来有望な若手選手が多かったため、「育成型クラブ」へ転換を計ったのだ。そして、その若手選手たちには、「Jリーグで結果を出すだけでなく、世界レベルを体感させる」ためにクルピ監督を招聘し、普段の練習から世界レベルを意識させた。
クラブの財政事情は決して裕福とは言えず、せっかく育てた有力選手も独り立ちした頃には欧州クラブに引き抜かれたが、常にその穴埋めの補強に抜かりはなかった。香川の退団を見越して清武を獲得したり、清武の退団を見越して柿谷をレンタル先から復帰させたりといったチーム編成は『育成型クラブ』の模範と言える強化策だった。
また、梶野氏は強化部長就任前にはチームのブラジル人選手の世話役をしていた事もあり、ポルトガル語を完璧に使いこなせる。そして、現役時代にC大阪でチームメートとしてプレーした元ブラジル代表GKジルマール氏がブラジルで代理人として大活躍していたこともあり、その元同僚と密にコンタクトをとり続け、有力なブラジル人選手を他のJクラブの約半額で何人も獲得する事が出来た。
その他にも、欧州クラブからの引き抜きに対する適性な違約金(移籍金)の設定を、他のJクラブより先んじて取り入れ、その資金を基に魅力溢れるチーム編成の指揮を執っていたのだ。
サポーターにとっては、毎年チームの主力選手が変わるのは寂しいものだが、それに代わる有力な若手や外国籍選手を格安で獲得し、世界へ通じる選手に育って羽搏いていく姿は、タイトル獲得とは違った満足感もあったはず。おそらく、この感覚は未だ25年目を迎えたJリーグの歴史でもC大阪のサポーターにしか分からない感情だ。
ビッグネーム補強の失敗例となったC大阪
そんな功労者2人がフォルラン獲得の裏で退団した。チームはその年にいきなりJ2降格。前年度4位からの急降下だった。
期待のフォルランは完全にピークを過ぎた状態で大ブレーキ。シーズン中に2度の監督交代、柿谷の海外移籍もあって、チームは最後まで迷走し続けた。当然の帰結かもしれない。
梶野強化部長が去ったチームは、フォルランに続いてドイツ代表歴のあるベテランFWカカウも獲得していた。「タイトルを獲れていない」から、“脱クルピ体制”を決断したとされているが、完全に失敗だった。
また、当時の岡野雅夫社長が「フォルラン獲得は情報漏えいのために、クラブのスタッフにも内密にした」と豪語していたものの、梶野強化部長の耳にも一切入れなかった事は越権行為とも言える。
それまで1日単位で契約書を作成して、強化費を切り詰めて来た梶野強化部長の仕事ぶりで、「育成型クラブと健全経営を両立する“Jリーグの模範クラブ”」だったC大阪が、フォルランとカカウの2人だけで年棒8億円以上を払うなど、ベテラン選手ばかりの金満クラブのイメージになった。それはJ2降格や1年でのJ1復帰が叶わなかった成績面以上に残念でならない。
せめて、クルピ監督か梶野強化部長のどちらかが残っていれば・・・と未だに思ってしまうのは筆者だけではないだろう。
ポドルスキ・清武・イバルボの運命は意外と良好?
そのC大阪が今回、清武を約7億円ほどの移籍金を払って獲得した。ただ、現在のチームには戦力的に乏しかったサガン鳥栖を“あの”2014年にJ1でも優勝争いに導いていたユン・ジョンファン監督がいる。ユン監督は現役時代にC大阪でもプレーしたOBでもあるし、鳥栖時代にはフロント業もこなしているため、あの2014年の悲劇は避けられるだろう。
ポドルスキが加入する神戸では、ヴェルディ川崎(現・東京ヴェルディ1969)や柏レイソルで幾度もタイトルを獲得して来た「優勝請負人」ネルシーニョ監督が就任3年目を迎え、安定したチーム作りの土台が出来上がっている。
イバルボが加入する鳥栖も、FC東京でクラブ史上最高のリーグ4位と勝点63を挙げたマッシモ・フィッカデンティ監督が就任2年目を迎えており、手堅いチームが出来上がっている。
今年Jリーグにやって来た(ポドルスキは夏に加入)ビッグネーム3選手は、それぞれ確かな手腕を持つ監督が率いるチームに加入した。この3チームの監督はどれだけ大物であってもハードワークを要求するため、選手側に問題があれば使わない厳格な指揮官でもある。2014年のC大阪とフォルランのような悲劇はないだろう。
ただし、残念な事はあった。ユン・ジョンファン、ネルシーニョ、フィッカデンティ・・・ビッグネームを託された指揮官は、全て外国籍監督だ。1994年のアメリカW杯で大会得点王に輝き、ブルガリア代表をベスト4に導いたFWフリストフ・ストイチコフを手懐けた西野朗(当時・柏レイソル監督/現・日本サッカー協会技術委員長)の姿が懐かしい。
とはいえ、Jリーグにやって来た3人のビッグネームとその所属する3チームの動向は楽しみだ。欧州の移籍が本格化する夏の移籍市場も楽しみに待ちたい!