情報化社会である現代にあって、サッカー界にもその影響は顕著だ。
10年ほど前までは欧州最先端のトレンドが日本を含むアジアへ流れてくるまでには2年ほどはかかっていたのが、今では半年ほどで共有されているのもその一例だ。
その結果、ピッチ内では守備戦術を筆頭に世界中で戦力差を埋めるための術が浸透し、現代サッカーはより拮抗した試合が増えた。日本代表がW杯のアジア予選で苦戦するのは何も不思議な事ではない。アジアでは韓国、欧州ではオランダ、南米ではアルゼンチンなどがW杯出場権を危ぶまれる状況にあるのも、そこには情報化社会の促進が理由の一因にあるはずだ。
そんな緊迫した試合の均衡を破るのは、選手個人の特殊能力。だからこそ、バルセロナのアルゼンチン代表FWリオネル・メッシやレアル・マドリーのポルトガル代表FWクリスティアーノ・ロナウド等は重宝されているのだ。
大物選手の獲得はチーム力の向上に繋がるのか?~C大阪の失敗例
2017年シーズンのJリーグは、英国に拠点を置くスポーツのデジタルコンテンツ企業=パフォーム社グループと高額な放映権契約を結び、『ダ・ゾーン』での配信中継がメインとなった。そして、その高額な放映権収入の分配により、シーズン前の各クラブの戦力補強がいつになく積極的だった。
セレッソ大阪には欧州でも実力を発揮した日本代表MF清武弘嗣が電撃復帰し、サガン鳥栖にはイタリアで名の通ったコロンビア代表FWビクトル・イバルボが加入した。極め付けは、FIFA-W杯にドイツ代表として3度も出場し、ドイツ代表キャップ130試合を記録したFWルーカス・ポドルスキのヴィッセル神戸への加入も決まった。
ただし、Jリーグにおいてビッグネームの獲得がイコールしてチーム力の飛躍的な向上に繋がるのか?それは甚だ疑問な部分もある。そもそも確かに大物ではあるものの、上記3選手にしてもそれぞれに“事情”を抱えてのJリーグへの移籍となったのは間違いないからだ。
2014年シーズン、C大阪が2010年の南アフリカW杯の得点王とMVPをダブル受賞したウルグアイ代表FWディエゴ・フォルランを獲得した。2度のスペインリーグ得点王とゴールデンシュー(欧州最多得点賞)も獲得するなど、その華々しい実績と年棒5億円以上と言われる金額にも注目が集まった。
しかし、その華々しい舞台の裏ではチームの功労者2人が静かにチームを退団していた。
香川・乾・山口・南野など数多くの日本代表を育て上げたクルピ監督
1人はC大阪で3度(1997年,2007年~2011,2012年8月~2013年)、合わせて8年近くも指揮を執っているという事実からして、クラブの歴史に置いても最も重要な存在である、レヴィー・クルピ監督だ。
御存知の通り、香川真司(ドルトムント/ドイツ)や乾貴士(エイバル/スペイン)、清武、南野拓実(ザルツブルク/オーストリア)といった多くの若手選手を日本代表に仕立て上げ、欧州のクラブでも活躍する選手に育て上げた名将だ。
他にもクルピ監督の指導を受けた選手では、現在もチームに在籍する柿谷曜一朗や杉本健勇、山口蛍などが日本代表へ招集されており、未だにその好影響はC大阪だけでなく、日本代表も恩恵を受けている。
クルピ監督の下、チームはタイトルこそ奪えなかったものの、2010年にはJ2から昇格1年目でJ1で3位。2013年にも同4位へと躍進し、2度のAFCチャンピオンズリーグ出場権を獲得。2011年にはACLでもベスト8へ進出し、アジアでも実力を証明できるクラブになった。それまでJ2に2度も降格していたチームとは思えない程だ。
それも2010年に香川、2011年には乾、2012年には清武と韓国代表MFキム・ボギョンと、毎年シーズン途中にチームの軸となっている選手が欧州移籍でチームを離れる中で、Jリーグでもトップクラスの結果を残して来たのだから、特筆すべき成果だ。
『育成型クラブ』の模範となるチームを編成した梶野強化部長
そして、そんなチームを編成して来たのが梶野智強化部長。現役時代はC大阪で主将としてプレーしたOBだ。