“攻撃力2強対決”は「パトリックとGKの使い方」で勝敗を分ける
【天皇杯4回戦】
ガンバ大阪2-0川崎フロンターレ
得点者
<ガンバ大阪>大森(45+2分)、倉田(53分)
“攻撃力完全2強対決”と、当コラムでも話題を煽った注目の一戦。ホームでこの対戦を迎えたガンバ大阪はAFCアジアチャンピオンズリーグ出場を考慮され、この4回戦からの出場。しかし、日本代表へFW宇佐美貴史と左SB藤春廣輝の2人が招集されて欠場。さらに負傷を抱え続けるCBの岩下敬輔も今季は起用されない方針の下、CBには下部組織出身の長身DF西野貴治が先発。左SBには両サイド対応可能のオ・ジェソク、2列目には普段はポジションを争っている倉田秋、阿部浩之、大森晃太郎の3人が揃う布陣。
対する川崎はFW小林悠が再び負傷離脱。また、夏の移籍市場で卓越した個人技と突破力で“違い”を作っていたFWレナトが中国の広州富力へ電撃移籍した穴は埋まっておらず。筑波大学時代から風間八宏監督の指導を受けていた大卒ルーキーのMF中野嘉大の台頭はあるものの、前線は3年連続のJ1リーグ得点王が濃厚のFW大久保嘉人に頼りきりの再編中。この日は小林の代わりには今季セレッソ大阪から加入したFW杉山健勇。幾度も大久保や小林にもないスケールの大きなプレーで迫力と鋭さを見せながら、肩透かしを食らうほど大きな波がある彼の働きが勝敗の鍵になるメンバー構成でスタート。
宇佐美欠場を”活かした”前線からのプレスを敢行したガンバ大阪
試合は開始から川崎の特徴である後方からのビルドアップに対して、ガンバ大阪が高い位置からのプレッシングを敢行。宇佐美の欠場により、普段は彼の運動量や守備面への不足を補っているこの日の2列目起用の3人が連動する事で、川崎のパスワークを乱す事に奏功。高い位置でボールを奪ってからのショートカウンターでインテンシティ(プレー強度)の高い試合運びを選択。かつての”ポゼッション・キング”はボールのない状態で試合の主導権を握る事に。
ところが、ガンバ大阪のショートカウンター以外の攻撃は、たとえボール奪取の位置が低かったとしても最前線のパトリックへ狙うパターン攻撃に終始。前半4分過ぎにボランチの位置で今野泰幸が奪い、そのままアイコンタクトもなく、曖昧なままにパトリックが得意となる最前線右サイドのスペースへ送ったミドルパスなどはその象徴。これは”判断”ではなく、あらかじめ決まっている”約束事”。パトリックに頼り過ぎる事が今季のタイトルマッチ級の試合で無得点という悪循環に陥るパターンであるものの、その傾向はこの試合にも感じられた。よく、ロングボールを”放り込む”という表現があるものの、現在のガンバ大阪はスルーパスをパトリック、あるいは右サイドのオープンスペースへ”放り込む”という攻撃に頼り過ぎている。
ただ、前半のアディショナルタイム。GKからのフィードを繋ぎ、バイタルエリアでボールを受けたパトリックがドリブルで右へ持ち出しながら突破。さらに意表を突くタイミングで入れたグランダーのクロスに大森が飛び込んで生まれた先制点のように、パトリックのフィジカルと突破力に頼り切る事こそが効果的でもある。
倉田が魅せたパトリックの”新たな活かし方”
後半に入って53分、自陣深くで奪ってからのガンバ大阪のロングカウンター。阿部が前を向いて加速した倉田へショートパスで持ち出し、倉田は空いた中盤をスピードに乗ったドリブルで独走。その間、パトリックは自らの得意な右サイドではなく、左へ流れる動きを見せて倉田が使えるスペースを提供。倉田もパトリックが空けたスペースへドリブルで侵入する事で、人もスペースもフリーの状況のままシュート。これが決まって貴重な追加点を挙げたガンバ大阪が2-0のまま試合を制し、前回王者がベスト8進出。