ただし、ドルトムントのプレスを交わすのにも慣れて来たバイエルンは、おそらくジョゼップ・グアルディオラ監督の就任後の2シーズンで最も伸びたと言える選手であるDFイェロメ・ボアテンクが最終ラインからワンタッチでサイドチェンジやロングフィードを通す事でドルトムントのプレス網を攻略。ペップ監督の恩師であるヨハン・クライフの口癖である、「ワンタッチでプレーできる選手は優秀、ツータッチはまあまあ、スリータッチは下手な選手」を体現するボアテンクは、ペップ監督就任時は“スリータッチの選手”だったと思います。それがこんなに強いだけでなく、上手い選手にもなったとは・・・さすが“ペップ・バイエルン”と感心するビルドアップの数々でした。ボアテンクを起点にゲームを攻略し始めたバイエルンは右サイドから侵入したラームがGKを襲うシュートを放つなど好機も演出。
そして30分でした。ドルトムントのカウンターで香川が中盤をドリブルで持ち上がって数的優位を作ってのフィニッシュの局面。しかし、ここで香川のパスをシャビ・アロンソがインターセプトすると、攻撃参加していたドルトムントの右SBドゥルムの裏をシンプルに使われ、FWレヴァンドフスキーが流れてフリーでエリア内まで持ち込みシュート。1度はポストに阻まれるも、自ら拾ったレヴァンドフスキが角度のない位置からDFの股を抜く巧みなシュートを決めて1-0とバイエルンが先制。
その後も好機を演出していたバイエルンが1-0とリードして前半を折り返しました。
バランスが狂った選手交代 「壊す」のがドルトムントの真骨頂
両チーム共に選手交代なしで入った後半も試合の主導権を握るのはバイエルンのまま。55分には左サイドからファン・ベルナトのパスでエリア内に抜け出したレヴァンドフスキが右足を振り抜くが、クロスバーに阻まれる場面も。ここまでは完全に“ペップ・バイエルン”の理想的なポゼッション・ゲームでした。
しかし、正確な技術でゲームをコントロールしていたバイエルンMFチアゴ・アルカンタラが68分に負傷。チアゴに替わって投入されたのはロッベンでした。それまで<3-5-2>のインサイドMFに入っていたチアゴに替わって、本来ウインガ―のロッベンが入った事で、システムは<3-4-1-2>にマイナーチェンジされ、ロッベンはトップ下に入りました。逆にドルトムントがボールに全く絡めないで、失点の起点にもなってしまった香川をベンチに下げ、ヘンリク・ムヒタリアンを投入したのが70分。この両チームの選手交代が大きく試合を変えました。
攻撃を前線の3人に任せながらカウンター気味に追加点を狙いに行ったバイエルンでしたが、それまでMF3人で圧力を加えていたバイエルンの中盤での支配力が消え、ドルトムントの激しいプレッシングが圧倒する展開となりました。技術の高いチームを相手に、ある種「壊す」事でカオスの状態にして同じ土俵に上がる事で互角に渡り合うのはドルトムントの真骨頂。
そして75分、ドルトムントの分厚い攻撃。エリア外からの“クバ”ブワチュコブスキが浮き球のパスでエリア内左のムヒタリアンに。コレをダイレクトのグランダーで折り返すと、中央のマルコ・ロイスには合わなかったものの、ファーサイドに流れたボールをピエール・エメリク・オーバメヤンがスライディングで右足を合わせたシュートがゴール枠内へ。バイエルンのGKマヌエル・ノイアーが懸命に掻きだした場所は明らかに枠内と判定され、ドルトムントが1-1の同点に。
さらに悪循環が続き、バイエルンはロッベンが途中出場から15分ほどで負傷交代となり、元ドルトムントのマリオ・ゲッツェが投入されたものの、レヴァンドフスキと共に「裏切り者」がピッチに立った事で、ドルトムントの闘争本能がさらに燃え上ってしまいました。
ただし、スコアはこのまま動かずに延長戦に突入。バイエルンはシステムを<3-5-2>から<4-3-3>に替えてバランスを取り戻し、ドルトムントのプレッシングにもさすがに限りが見え始めました。そして、バイエルンにセットプレーから途中出場のバスティアン・シュヴァインシュタイガーが頭で合わせる惜しい場面も。延長後半早々にはドルトムントの途中出場のMFケヴィン・カンプルが2枚目の警告を受けて退場。バイエルンが数的有利となり攻勢となりましたが、115分の左クロスから、中央フリーで飛び込んだシュヴァインシュタイガーのヘッドもGKミチェル・ランゲラクの左足でセーブされ、延長でもスコアは動かずPK戦に。
PK4人全員失敗のバイエルン 主将・副主将が軸足を滑らせる
PK戦は衝撃の事態に。ホームスタジアムで開催されており、PK戦もバイエルンのサポ―ター側のゴールで行われながら、写真のようにバイエルンの1人目ラームと、2人目のシャビ・アロンソが軸足を滑らして転倒しながらのキックとなり大きく枠を外して失敗。3人目のゲッツェもGKランゲラクにセーブされ、4人目のキッカーは「流れを変えるために」おそらく自ら申し出てGKノイアーが務めながらクロスバーに当てて失敗。チームの主将と副主将が連続で外し、W杯決勝でドイツを優勝に導くゴールを決めたラッキーボーイも、世界王者の守護神も失敗してはメンタルで負けてしまって当然です。
ドルトムントのキックを世界王者の守護神ノイアーは維持で1本止めましたが、2本を成功させたドルトムントが勝利。ベルリンでの決勝進出を決め、退任が決まっているクロップ監督の花道を用意しました。
決勝の相手は現在ブンデスリーガで2位のヴォルフスブルクで、5月30日にベルリンのオリンピア・シュタディオンで開催されます。