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王者にも真っ向勝負のズヴォレ ~オランダカップ連覇の偉業へ視界良好

“オランダらしい”攻撃サッカー 王者にも真っ向勝負のズヴォレ

 今、凄く面白いサッカーで快挙を達成しようとしているクラブがあります。そのクラブはオランダ東部のオーファーアイセル州の州都であるズヴォレにあるPECズヴォレ。

1910年に創設されたズヴォレは創設100年を越える歴史の中で、オランダ国内のトップリーグであるエールディビジに所属するのは今季で僅か15シーズン目の小さなクラブです。過去最高順位は1979年のリーグ8位というエールディビジ残留が目標となる規模のチーム。本拠地となるアイセルデルタ・シュタディオンの収容人数は10500人。Jリーグに例えると湘南ベルマーレくらいの規模と言えるかもしれません。J1ライセンスは15000人収容のスタジアムを本拠地としないと公布されないので、それ以下と言えるかもしれません。

 そのズヴォレが昨季のKNVB(オランダサッカー協会の略で日本の天皇杯に相当)カップで優勝を果たし、クラブ史上初のタイトルを獲得。それも決勝ではリーグ4連覇を達成した王者=アヤックス・アムステルダムを相手に5-1と歴史的大勝。カップ戦決勝で王者相手に先制点を許しながらの逆転劇にはカウンターサッカーではなく、真っ向から攻撃を仕掛ける痛快なサッカーが窺えました。さらに、ズヴォレの偉業は続き、リーグ戦とカップ戦の王者が戦うヨハン・クライフ・スハール(各国で言うスーパーカップ)でも、そのアヤックスを1-0で破り、屈辱の大敗でリヴェンジに燃えていた王者を返り討ちにし、クラブ史上2つめのタイトル獲得で今季の幸先の良いシーズンをスタートさせました。

 そして、その今シーズンは開幕から3連勝で序盤戦は首位争いも経験。シーズン開幕直後に絶対的な攻守の要であり、「バルセロナでもプレーできるMF」と言われる南アフリカ代表MFカモへロ・モコチョが同じエールディビジのトゥウェンテへ引き抜かれての苦しいチーム作りからの快進撃でした。現在は後半戦に入ってから少しリーグ戦の成績はトーンダウンしていますが、すでにこれまでのクラブ史上最高勝点だった41を大幅に更新する47ポイントを獲得。オランダリーグは全34試合のリーグ戦を終了すると、リーグ戦の4~7位の間で次のシーズンのヨーロッパリーグ出場権を争うプレーオフが行われるのですが、ズヴォレは現在7位。過去最高位となる7位以上を目指し、残り2試合で8位・フローニンゲンとは勝点4ポイント差でプレーオフ進出に王手の位置をキープしています。

 さらに、今季のズヴォレは昨季同様にKNVBカップでも勝ち進み、準決勝でモコチョを引き抜かれたトゥウェンテ相手にPK戦の末に勝利し、今週末に開催される決勝進出。KNVBカップの連覇という偉業に挑みます。相手は共にリーグ戦で7位以内を目指す8位のフローニンゲンです。(なぜか決勝の翌週にもリーグ戦でこの対戦が組まれています。)

 

広島でもプレーしたヤンス監督が標榜する[4-2-4]の超攻撃サッカーと未完のタレント

 このズヴォレ躍進の鍵になっているのは2013年夏から就任したロン・ヤンス監督の存在。現役時代はサンフレッチェ広島の前身であるマツダSCでもプレーしたオランダ人監督ですが、彼が志向するサッカーはほぼ[4-2-4]と言えるくらいのシステムを採用する超攻撃的スタイル。

 もちろん小クラブゆえ格上に対して中盤でのポゼッションを譲る試合もあるようですが、中盤でのボール支配と攻撃志向は別物で、その場合は前線からの積極的なプレッシングによるショートカウンター戦略に切り替えて攻撃マインドの高さを貫いています。

 攻撃サッカーの伝統が植え付けられているオランダに置いても、その痛快なズヴォレのサッカーは選手達の間でも評判が高く、タイトルまで獲得できるようになった昨季を経て、今季からはアヤックス出身の快速ウインガーであるジョディ・ルコキ(上記写真)を完全移籍で獲得。ロンドン五輪直前のトゥーロン国際ユース大会で当時のU23日本代表が散々1人にやられ続けた“あの右ウイング”です。他にも10代でPSVに引き抜かれながら芽が出なかったステファン・ナイラント。CSKAモスクワで10代にして日本代表MF本田圭佑をトップ下に据えた1トップとして活躍していたチェコ代表FWトーマシュ・ネチドもレンタル移籍で獲得。この程、完全移籍への移行が発表されるなど、ビッグクラブで花が開ききらなかったとはいえ、タレントが徐々に集まって来ています。

 今年初冬のアジアカップで優勝し当コラムの独断の大会MVPに選出したトレント・セインズベリーもこのクラブの主力で、センターバックとして最後尾からもパスを繋ぐ攻撃スタイルに一役買っています。アジア人が成功しにくいCBというポジションで結果を出しているセインズベリーのオランダでの活躍は日本代表CB吉田麻也を明らかに越えています。セインズベリーもルコキもまだ22,23歳。彼等やオランダU21代表のMFムスタファ・サイマクという若手タレントがイングランドやスペイン、ドイツでプレーする日も近いかもしれません。

“お得意様”の王者を翻弄するズヴォレ 古巣・王者相手に闘志燃やすルコキが躍動

 そんなズヴォレは先週末のリーグ戦で2つのタイトルマッチで倒した“お得意様”の王者アヤックスをホームに迎えました。前述のように収容人数10500万人の小規模なスタジアムですが、サッカーの内容と結果がクラブ史上最高の出来である地元での人気は大盛況。そのホームサポーターに支えられるズヴォレはホーム戦の成績が今季は10勝3分2敗という優勝争いが出来るほどの好成績を残しているのですから、地元で人気が出るのも大いに理解できます。Jリーグのように収容人数を重視するよりも、収容率を重視している点もスタジアムの“ホーム感”を形成しているポイントでしょう。

 試合の方は、前週でPSVがリーグ優勝を決め、2位のアヤックスも来季のチャンピオンズリーグ出場権のある2位確定まで勝点1という状況下、アヤックスの先発リストには10代の若手が3人並ぶメンバー構成に。ズヴォレは前の試合で退場していた豪州代表DFセインズベリーが出場停止でしたが、それ以外はベストメンバーでスタート。

 ズヴォレは相手のアヤックスからレンタル移籍して来たFWシェラルド・ベッカーが左ウイングに入り、右ウイングのルコキと共にアヤックス出身の両ウイングを活かしたサイド攻撃で攻勢に出ました。圧倒的なスピードとフェイントを魅せるルコキのドリブル突破力に古巣・アヤックス守備陣は完全に翻弄されていました。今季3トップを固定できずにリーグ5連覇を逃したアヤックスですが、個人能力では現在のアヤックスFW陣よりもルコキの方が格上にある事を証明していました。ネチドもアヤックスのDF2人相手でも空中戦やポストプレーでは違いを見せ、前線で確実にボールを収める事にも成功。

 また、中盤からの縦パスに最前線のネチドがヒールキックでフリック(ワンタッチで裏に出すポストプレーの技術)した絶妙なボールに、エリア内まで長い距離を走ったMFサイマクがGKと1対1を迎えるビッグチャンスという「人もボールも動く魅力的な攻撃サッカー」で王者を圧倒しました。決定機で決めきれないのがズヴォレというチーム、またはルコキやネチドがビッグクラブで大成できない課題ではありますが・・・。結局、序盤から相手最終ラインにビルドアップも許さない積極的なプレッシングでゲームを支配したズヴォレですが、前半はスコアレスで折り返しました。