ペップ・バルサの登場、対抗策=ゲーゲン・プレス

 守備的発展の続くサッカー界に現れたのが、クライフが監督としてトータル・フットボールを植え付けたバルセロナだった。クライフ監督時にリーグ4連覇(1991~1994年)と1992年のチャンピオンズカップを制した。

 その後も紆余曲折ありながら、この路線のサッカーをクラブとして追求し続けて来た。2008年にはシャビ・エルナンデスとアンドレス・イニエスタというバルセロナの下部組織出身である稀代のMFコンビを軸に、スペイン代表がEUROを制した。
 そして、EURO優勝を経た2008年の夏、バルセロナにはクライフ時代に攻守の要として活躍していたジョゼップ・グアルディオラが監督に就任した。
 ミケルスやクライフが紡いできたトータル・フットボールは、グアルディオラによって現代版にアップデートされ、ボールを失った後の即時奪回やカヴァーリングという守備面も修正されていた。
 ボールを失っても直ぐに奪い返せる事は、守備力のアップはもちろん、攻撃の時間が増える事を意味する。攻守にブラッシュアップされた“ペップ・バルサ”は2009~2011年にリーグ3連覇、2度のCL優勝を結果以上の完璧な内容で成し遂げた。
 ただ、この最強バルサ相手に斬新な戦術を持って対抗して来たチームがあった。

 ユルゲン・クロップ(現・リヴァプール監督)率いるボルシア・ドルトムントだ。
 クロップのドルトムントは2011,2012年と国内リーグを2連覇し、翌年にはCLでも準優勝。そのドルトムントが決勝で敗れたのは、ドルトムントに過去2年間も国内タイトルを独占されたバイエルン・ミュンヘンで、部分的にドルトムントの戦術をコピーする事で2013年に3冠を達成した。
 クロップが名付けた“ゲーゲン・プレス”なる戦術。ドイツ語の“ゲーゲン”は日本語で「カウンター、逆」などと訳す事ができる。つまり、「逆プレス」、「カウンタープレス」という意味だ。
 プレスの逆とは?つまり、ボールを保持している時からプレスの準備を戦術として成立させている事になる。
 コレがただのハイプレスならば、ボールを持っていない状態が主語になってしまうが、ゲーゲンプレスは違う。相手がボールを奪ってカウンターに出ようとした瞬間こそが、「最も得点を奪うチャンス」だとクロップ監督等は考え、この瞬間の攻撃から守備への切り替えで再びボールを奪い返す。
 そのため、主導権を握りながらプレッシングを準備する事が重要なのだ。

新戦術は最強チームを部分コピーする事から生まれる?

 ただ、このゲーゲンプレスを名付けたクロップ監督がこの戦術を導入したキッカケは、「バルセロナの守備の部分をコピーした」と本人が証言している。
 日本ではバルセロナのサッカーをパスサッカーだと捉え、パスワークや攻撃の仕掛けにのみ特化した戦術論を語る識者や、それを指導する監督ばかりだが、ドイツは守備の部分に特化したのだ。
 
 振り返ると、ゾーンプレスを完成させたACミランにも、当時のセンターラインにはフリットとファン・バステン、ライカールトのオランダ・トリオが必要不可欠な軸としてプレーしていた。
 トータル・フットボールに対抗するためのゾーンプレスでも、トータル・フットボールの申し子3人が軸になっていたのだ。
 最強の相手に対抗するには、相手をリスペクトする意味でも相手を研究するのはもちろん、部分的に取り入れる事で、新戦術となる対抗策を打ち出していくのだ。