なでしこジャパンとサンフレッチェ広島の強さを支えるモノ
「彼女たちは私たちにないモノを持っています。」
「優勝の立役者は試合に出ていない選手たちです。」
上記2つのコメントは2015年の日本サッカー界で大きな成果を挙げたチームの選手たちから発せられた。前者は女子W杯カナダ大会で準優勝した、なでしこジャパンの主将MF宮間あや(岡山湯郷Belle)。後者は明治安田生命J1リーグを制し、FIFAクラブW杯で3位の座を射止めたサンフレッチェ広島の下部組織出身のベテランMF森崎和幸によるものだ。
『個』か『組織』か?なでしことサンフレッチェの例
なでしこは2011年のドイツW杯で初優勝、2012年のロンドン五輪準優勝、2014年にもアジアカップ初優勝に続く偉業。サンフレッチェも直近4シーズンで3度目のリーグ優勝を成し遂げたチーム。性別はもちろん、代表チームとクラブチームの違いもあれど、ここ4年単位の日本サッカー史では輝かしい偉業を成し遂げ続けているチームだ。
そして、その強さの源としてのベンチメンバーに対する言葉が上記のモノだ。確かに“建前”の部分もあるかもしれないが、実は奥が深い。特にサッカー界では、怪我や出場停止で主力メンバーが欠ける時、チームの監督や選手たち、メディアまでもが「誰が出ても同じサッカーが出来るので心配はない」、あるいは、「誰が出ても同じサッカーが出来るチーム作りが目標」との言葉が多く聞かれる。特にそれは組織を重んじる日本のサッカー界では顕著だ。
しかし、なでしこジャパンやサンフレッチェ広島はどうか?なでしこの主将・宮間は「彼女たちは私たちにないモノを持っている」と言う。試合途中から出る選手には自分の個性や持ち味を最大限発揮して攻撃や守備、攻守のバランスをそれまでの試合展開から“流れを変える”という役目が与えられる。だから、「誰が出ても同じサッカー」では困るのだ。
なでしこジャパンもサンフレッチェ広島も先発メンバーは固定されているし、チームとしてのプレースタイルやコンセプトがしっかりしている完成度の高いチームだ。だからベンチメンバーが先発に抜擢されるような事は少ない。どちらのチームもポゼッションを重視する傾向も似ていて、同じポゼッション型でも西野朗監督時代のガンバ大阪や現在の川崎フロンターレのような個人の技量から網み込まれるようなパスサッカーではなく、組織としてのポゼッションやパスワークが浸透しているため、高い位置でのポゼッションは少ないかもしれないが、低い位置からのビルドアップや両ワイドへの展開など幅広いパスワークが信条のチームであるのも似ている。
そんな組織サッカーが出来るなでしこジャパンとサンフレッチェ広島のベンチメンバーには個人の能力を強烈に打ち出してくる選手が求められる。なでしこであれば、それは変幻自在のドリブルによる局面打開力があるFW岩渕真奈、サンフレッチェであれば電光石火のスピードを持つFW浅野拓磨がその象徴になるだろう。
『誰が出ても同じサッカー』は理想でも目標でもない。『誰が出ても各選手の個性を引き出せるサッカー』が出来れば、同じクオリティと強さを維持でき、自然とチーム戦術上でも新しい選手がフィットして来たのが昨年のサンフレッチェだったのだ。