28〗The Valley / ロンドン


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ビッグサイトでの講演では中田氏の「百カ国以上を旅した」のフレーズを複数回耳にした。ジーコ·ジャパンのラトビア/ウクライナ遠征の他でも、ボルトンでのUEFA杯はプロブディフでのアウェー戦に始まり十一月のギマランイスが終点に。この試合が中田にとって生涯最後のUEFAコンペティションとなる。それにしても九月後半から十一月中旬まで二か月にも満たないこの間に英国を拠点として、ブルガリア/ラトビア/ウクライナ/トルコ/ポルトガルで試合を熟すハードスケジュール。既に体は満身創痍。これでは下半身がグロインペイン症候群で悲鳴をあげても何ら不思議ではない。
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ネットでは見つからないもの 体験でしか得られないこと

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引退後世界を旅した中田氏はPC画面と向き合うのだが、ネット上で誰もが簡単にアクセスできる知識などたかが知れている。自分の付加価値になり得るような情報、自分にしか出来ないことがネット上に転がっているはずがない。既に世界を旅してきた中田氏が食や工芸など伝統文化の担い手を訪ね歩き体験と探究に踏み出したのは至極自然と言える。誰でも頭や心の中にはじめから “好き”がインプットされているわけではない。実際に始めることで芽生えてくる感情であって、好きな事は自身の体内で育くむもの。


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この連載も今でこそ好きで書いているが、元々文章を書くのは苦手だったし頻繁に渡欧するのも仕事だったから、フットボ-ルを欧州で観戦しようなどと思ってもみなかったのが二十年前。それが今では欧州のスタジアムのピッチサイドで誰よりも撮影をしている日本人になってしまった。各都市を周り歴史と文化、土地の人にふれ、スタジアムを眺め、試合を取材し終えたならばまた次の街へ。この連載では自身が欧州で肌で感じたことを写真に文字を添えて伝えたいと思ってはみるのだか、所詮ネットで伝わるはずもなく、こればかりは擬かしくても毎回葛藤を繰り返すしかない。〖第二十八話了〗
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