シュツットガルトでは苦難の年月を重ね、トゥヘル監督(当時)とハイデルSDの誘いでマインツへとその居を移した岡崎慎司。彼はこの地にしっかりと根付き、チームでかけがえのない存在にまで成長、ファンの心をもしっかりと掴んでいるようだ。
それは、今回、奇しくもシンジダービーとなったボルシア・ドルトムント戦で証明された。
マインツのホームスタジアム、コファスアレナにはドルトムントに帰還した『放蕩息子』香川真司のチャントを歌うドルトムントのサポーターが大挙して押し寄せていた。みな、その顔は喜びに満ち溢れ、日本人を見かければ共に歌い、ビールを掲げて祝っていた。
ただ、俺は知っている。彼らの影で見えないけれども、マインツのユニに身を固めた二人の少女が、
『シンジのチャントってこうだったよね?』、と言いながら、
小声で岡崎のチャントを歌っていたことを。
俺の前に座っていた年配のマインツファンは、ガイスのユニに身を固め、マインツの選手一人一人のコールをまるで息子の名前を呼ぶような愛しさをこめて呼んでいた。そんな彼が声を荒げたのは、常にある事柄が関連していた。岡崎が削られ、傷つけられたときだった。『シンジ!』と何度叫んだか分からない。
そして岡崎がゴールをした。その瞬間、彼は大声を挙げて叫んだのだ、『シンジ!』と。本当に、心の底から彼を愛しているのを感じた。シュツットガルトでは今でも彼を上手く使いこなせなかったことを悔やんでいる。マインツではチームに欠かせない選手となった彼を心から歓迎し、愛している。
マインツは素朴で質素な街だ。彼らの応援はだからこそ力強く、温かい。岡崎の人柄と献身的なプレイは、そんな彼らの心をしっかりと掴んだのだ。己を知るものの期待に応えるべく限界まで自らを駆り立てる侍の姿は、ドイツの騎士道と混ざり合い、マインツの地で一つに融合した。そんな幻想を一瞬、垣間見た気がした。