優勝の可能性が事実上消滅した。
アーセナルのファンである事を自認する筆者とて、今季のアーセナルのリーグ優勝は、第33節のアウェイでのウエストハム戦で2点先行しながら3-3と引き分けた事で、「終わった」と諦めざるをえなくなった。その後、先週末の第34節・ホームでのクリスタル・パレス戦でも先行しながら終盤に追い付かれて1-1と引き分け。順位も4位と落としてしまったのだから、今後は来季のUEFAチャンピオンズリーグのストレートインでの出場権が懸かるリーグ3位が現実的な目標になる。ノルマもCLプレーオフから出場となるトップ4フィニッシュだ。
アップトン・パークで良かった
しかし、筆者は事実の優勝の可能性が消えてもあまり悔しくはなかった。
2009年10月、初めて現地で観たアーセナルの試合が、このウエストハムの本拠地であるアップトン・パークだったからだ。
先日の3-3の打ち合った試合同様も、当時の試合もアーセナルが先行しながら試合終了間際には追いつかれての2-2というドローゲームだった。
初めて現地観戦した試合で勝てなかったのはアーセナルファンとして心苦しかったか?と言えば、そうでもない。それには試合内容自体もスペクタクルで爽快な良い試合だったからでもあるが、当時の様々な良い思い出があるからだ。
だから、筆者の完全な個人的事情なのだが、アーセナルがリーグ優勝を逃す事になるのがアップトン・パークだったのならば、それはそれで良かったと思えるのだ。
初めて現地で観たアーセナル戦 アップトン・パークの思い出に浸る
ウエストハムは今季限りで本拠地のアップトン・パークを離れ、ロンドン五輪のメイン会場として使用したオリンピック・スタジアムへと移転する事が決定している。老朽化も進んでいるし、集客力を考えると当然の選択だ。
筆者が初めての現地観戦時、チケットの値段も対戦相手によって変わるのは欧州各国リーグの中小クラブでは一般的なのだけれども、それを知るキッカケもこの試合のチケットを取った時に知った。チケットをスタジアムのチケット・オフィスに置いてくれるサービスも、Jリーグしか観に行った事がなかった筆者にとってはとても魅力的に感じた。ただ、それ以上に初めて現地に着いてから3日目に相当したアップトン・パークまでの道程やイングランドでのサッカーが与える社会的影響度、試合前後のスタジアム周辺での出来事などが6年半経っても未だに鮮明に残っている。
まず、アップトン・パークへの地下鉄の最寄り駅はスタジアム名と同じ「アップトン・パーク」駅なのだが、そこへの地下鉄ハマースミス&シティ線、またはディストリクト線は車掌もいない無人列車。おまけにアナウンスもないため、ずっと外の駅名看板を見ていないといけない。試合日には多くのサポーターが乗車しているので下車駅を間違える事はないのだけれど。
そして、ウエストハムが本拠地を置く東ロンドンには、「夜中になると銃声か窓ガラスが割れる音のどちらかは聞こえる。どちらもの場合もある」と言われる治安の悪い地域でもあるのだが、アップトン・パークで下車した筆者の前に拡がったのは、如何にも下町という人情に熱そうな温かい街並みだった。スタジアムまで10分ほど歩かないといけないのだが、実に快適。市井のロンドナーの生活が見えて来る。
1人で観戦に訪れた筆者を、下町の住人が「初めてか?スタジアムはあっちだよ。おまえはハマーズ(ウエストハム)か?日本人ならアーセナルくさいな。」と言われ、アーセナルファンの筆者はロンドンダービーの中でもお互いにスペクタクルを追求するクラブ哲学を持つ両者の戦いは好意的に見られてはいるものの、警戒のためにアーセナルのユニフォームを着用しては行かなかった。
「僕はジャンフランコ・ゾラ(当時のウエストハム監督)の大ファンですよ」(事実)と筆者が言うと、「おお、わかってるねえ。」なんて言葉も交わした。