アーセナルはヴェンゲル監督を裏切るべきではない
過去2年、FAカップを連覇していたアーセナルの3年ぶりの無冠が決定した。今季もプレミアリーグのトロフィーとの12年ぶりの“再会”は叶わなかった。
順調だった前半戦も恒例の”花粉症”にやられる
4月24日に開催されたイングランド・プレミアリーグ第35節、レスター・シティVSスウォンジー・シティ。首位・レスターがエースFWジェイミー・ヴァーディーを出場停止で欠きながらも4-0と完勝を収め、勝点を76ポイントに積み上げた。同節でサンダーランドに引き分けたアーセナルは同64ポイント。残り3試合を全勝しても勝点が届かず、今季の無冠が決定した。
過去最大のチャンスだった。昨季王者のチェルシーがチーム内部から大崩れして“自爆”。シーズンを折り返す頃には監督交代も起き、未だに中位を彷徨っている。チェルシー同様にリヴァプールでもシーズン途中での監督交代があり、マンチェスター・ユナイテッドは250憶円もの資金を移籍市場に投じながら迷走中。マンチェスター・シティは中心選手の長期離脱と今季限りでの監督交代が発表されてから急失速。どのクラブも監督の去就が問題となっており、今季途中か来季からの監督交代がある。
一方、就任20年目のシーズンとなったアーセン・ヴェンゲル監督が率いるアーセナル。毎年リーグ開幕直前に行われるコミュニティ・シールドではジョゼ・モウリーニョ監督が率いるチェルシーに14試合目にして初勝利。その後、紆余曲折あったものの、前半戦は39ポイント(12勝3分4敗)を獲得し、リーグを首位で折り返した。2連覇中だったFAカップでも順調に勝ち進んでいた。UEFAチャンピオンズリーグではグループステージを2連敗でスタートするも何とか持ち直し、2点差の勝利が突破の条件だったアウェイでの最終節・オリンピアコス(ギリシャ)戦で、フランス代表FWオリヴィエ・ジルーがハットトリックを披露しての0-3の勝利。見事に16年連続のベスト16に進出した。完璧とは言えないが、11年もリーグ優勝がないチームとしては順調なシーズンだった。
ただ、そのCLが再開された2月下旬から風向きは大きく変わった。世界最強と称されるバルセロナ(スペイン)と対戦したラウンド16の第1レグはホームでも0-2と敗れた。直後のリーグ戦で主力の半数が戦線離脱していたマンチェスター・”ヤング”・ユナイテッド、スウォンジーに連敗を喫した。それでも、直後に行われたアウェイでのノース・ロンドン・ダービーでは、後半の多くの時間を数的不利で戦いながら同点に追いついた迫力は手応えがあった。
しかし、復調したかに見えたアーセナルはFAカップ準々決勝でホームにも関わらずワトフォードに1-2と敗れた。“ほぼ”前人未到と言える大会3連覇の夢が消えた。直後にはバルセロナとのCLラウンド16でも3-1(2戦合計1-5)とあっさり敗退。4日間で2つの大会から敗退し、リーグでも首位とは勝点にして2桁の大きな差が生まれていた。
アーセナルは2月末からはいつもこうなる。日本人が花粉症になる季節だ。アーセナルはCLの決勝トーナメントという花粉が飛んでくる頃に急失速するシーズンが万年続いている。2010-2011シーズンにも2月末のリーグカップ決勝のバーミンガム戦で敗れた。4冠の可能性を残しながら、その後の僅か2週間足らずで3つの大会から敗退。リーグでも最終的に優勝する事になるマンチェスター・ユナイテッドに差をつけられ、結局は無冠に終わっていた。
アーセナルが3月になってクシャミをすると、タイトルが飛んで行くのだ。
ヴェンゲル監督の解任論に待った!~彼はアーセナルを裏切らなかった
ただし、ヴェンゲル監督のチーム作りは魅力的だ。最近はビッグマッチでは限定的に守備から入る変化をつけた試合もあるが、プレースタイルやチームコンセプトの軸は攻撃サッカーの路線で一貫している。選手個々の技術やアイデアも優先される。プレイヤーズ・ファーストの精神が宿っているので、プレーしている選手や観ているファンも楽しいはずだ。
その上で近年には2013年にはドイツ代表MFメスト・エジル、2014年にはチリ代表FWアレクシス・サンチェス、2015年にはチェコ代表GKぺトル・ツェフという大物選手を獲得しながら、若手の抜擢にも積極的だ。昨季はフランス人MFフランシス・コクランとスペイン人DFエクトル・ベジェリン、今季はナイジェリア代表デビューも果たしたFWアレックス・イウォビが主力に定着。
2000年にレアル・マドリーの会長に初めて就任したフロレンティーノ・ぺレス現会長は、ジヌディーネ・ジダンのような世界的スター選手とフランシスコ・パボンのようなアカデミー出身選手を組み合わせた“ジダネス・パボネス”計画によるチーム作りを打ち出したが、ギャラクティコス(銀河系軍団)にアカデミー出身選手の居場所はなかった。しかし、アーセナルでは、この“ジダネス&パボネス”計画は成功していると言えるはずだ。