ただ、終盤は中盤のスペースが拡がって間延びし、お互いにオープンなゲームとなった87分、湯郷は藤田の正確な左CKから、中央の斎藤が打点の高い強烈なヘッドを決め、待望の1点を奪った。
が、しかし、直後の89分だった。吉備国際大の左サイドからシンプルなスローインからのクロスに対して、ぺナルティエリア内で池尻をフリーにしてしまい、「玉田圭司(名古屋グランパス所属の男子日本代表FW)か?」と思わず目を擦ってしまうような、池尻の豪快かつ見事な胸トラップからの左足シュートが綺麗に決まって同点。見事な個人技だった。
最終盤、湯郷はパワープレーに頼らず、全員でボールを繋ぎ、木龍の足下へ。ゴール前で得意の左足へ持ち込むドリブルを見せる木龍がイメージ通り狙った左足の低い弾道のシュートが決まった・・・か、に見えたボールは相手GKがビッグセーブで防ぎ、岡山ダービーは1-1のドローに終わった。
また、この日の他会場で首位のC大阪堺Lが勝利したため、グループB首位が決定。決勝進出を決めた。湯郷はリーグ杯のグループリーグ敗退が決まった。(以下、順位表参照)
“新生・岡山湯郷Belle”は、“偽サイドバック”に注目せよ!
亘監督はここ3試合、MF亀岡夏美に主将を任せている。その亀岡は2週間前の敵地・C大阪堺L戦で逆転の決勝点を決めた選手だが、その時の彼女はこの日の後半と同様に右SBとしてプレーし、前節・ハリマ戦でもSBとして起用されている。
「彼女はしっかりとまとめられる選手で、最近ではポジション的にもSBもやってもらっています。フィリップ・ラーム(昨季限りで引退した元ドイツ代表主将で、SBの位置からゲームメイクができ、MFも務めた。)のようにSBをこなしながら、運動量豊富に中盤のプレーにも絡めるように、この先も伸びて行って欲しい選手で、中盤でプレーする時にもSBの気持ちも分かってもらいながら、全体的に成長していく過程の上でも、今の彼女にキャプテンをやってもらいたい。」(亘監督)
亀岡に限らず、この日は左SBの位置からサイドへ中央へと広範囲の攻撃に絡んだ吉村。ボランチにも関わらず、右サイドのタッチライン際まで何度も攻め上がっていたMF藤田。リーグ開幕から4戦で13失点した後、緊急補強で加入して守備やビルドアップの安定に大きく貢献しているDF斎藤。この辺りが主力として固まってきた。
この日、左サイドからの突破やフリーランで木龍の負担を軽滅・サポートするなど出色のパフォーマンスを見せた吉村は、昨季所属していた伊賀フットボールクラブくノ一では全く出番がなかった。トライアウトを受けて湯郷へ加入した今季、この日で公式戦の出場は15試合目(リーグ9試合、カップ戦6試合)となった。ただ、吉村は先発しても前半のみで交代となるケースが多かったり、前半途中でポジションが変わる事も多い。客観的に見て前半のみでの交代が続くと、なかなかモチベーションを保つ事が難しい中、「自分に課題があるので、それを反省・修正してピッチに立っています。」と言い、この日のパフォーマンスについても、「常に1つ前を取れるようにプレーしていました。」と言う。亘監督もそんな雑草魂で取り組む吉村を先発で使い続けている。
CS放送J-SPORTSの海外サッカー番組『Foot!』出演時、亘監督は、理想の攻撃について、「ラグビーのモールを作りながら、そのモールをも突破するような攻撃。」または、「密集を作ってオーソドックスにサイドチェンジをするのではなく、みんなが『狭い』と思っているスペースでも、自分達は『使える』スペースだと捉え、同サイドや中央を突破していくようなサッカー」と論じていた。
その上で、上記したC大阪堺L戦の決勝点は、左サイドから斜めにゴール前のFWへクサビのパスが通り、2トップ+1人がポストプレーとスルーで絡み、逆サイドに上がっていたSBの亀岡がフリーで豪快なシュートを突き刺したモノで、亘監督が考えるサッカーの一端が見えた。