10〗Schnabelholz-Stadion / アルタッハ

カナディとヒュッターの直接対決 ミラノに八万人よりもアルタッハの八千人

◇◇◇◇◇

2013-14のシーズン独走状態で二部優勝を果たし昇格へと導いたカナディ。前任者はカールスルーエSCの監督経験もあるドイツ人ライナー·シャリンガー:Rainer Scharinger【1967年3月4日生】。その前にはトップチ-ムを初めて任されるアドルフ·ヒュッターが二部降格した2009年から古巣を率いていた。初年度は三位、その後二年連続で二位の好成績でも、プレ-オフシステムを採用せず優勝クラブのみが昇格できるこの国では意味をなさない。
カナディにとってSCRAでのブンデスリーガデビューとなる14-15シーズンは勝ち点59を獲得。シュトゥルム·グラーツを1ポイントの僅差で押し退けて、三位でのフィニッシュ。二位はラピド、連覇を達成したのが新指揮官にヒュッターを迎え冬の移籍市場で南野拓実が加わったレッドブルザルツブルクだった。
◇◇◇◇◇

あの日あの時は■2014年11月9日オーストリアブンデスリーガ第15節SCラインドルフ·アルタッハ対レッドブルザルツブルク
アドルフ·ヒュッターの首位ザルツブルクをシュナーベルホルツで迎え撃ったのは昇格クラブながら三位をキープするカナディのSCRアルタッハ。4-1のスコアでホームチームに軍配が上がる。立ち見を含めてキャパシティ八千五百のシュナーベルホルツで八千人を超える観客の動員は後にも先にも記憶にない。前述のとおり八万人を動員するミラノの人口は百三十万。それに比べ人口七千に満たない村に人口以上の観客が集まるほうが遥かに凄いのではなかろうか。

かつてのアルタッハの名将は今いずこに

◇◇◇◇◇

共に’70年生まれの名将、ひとりは愛弟子と再び欧州最高峰のステ-ジを目指しているが、ところでもうひとりはどうしているのか。
◇◇◇◇◇


◆◆◆◆◆

’22年にSCRAを去るとクロアチアとのHNKシベニクで指揮を執り’23年5月フルヴァツキ·ノゴメトニ杯で決勝進出。惜しくもタイトルを逃した。その名が示すとおりウィーン出身でもゲルマンではなく旧ユ-ゴの血が流れる家系。クロアチア語も堪能なカナディがシベニクに招聘されても驚きはないが、現在キプロスのエノシス·ネオン·パラリムニFCの監督に就いていたのは少々意外な気もする。
◇◇◇◇◇

さて一昨日のオーストリアブンデスリーガ20節、最下位に低迷するSCRAはラピドに0-5の大敗を喫した。次節シュナーベルホルツ·シュターディオンに乗り込んでくるのは今季不調とはいえ赤牛軍団。SCRAにとって続く試練と二部降格の忍び寄る暗影。この小さな村のクラブがカナディに導かれトップリ-グの座を十年以上堅持してきたことがそもそも奇跡に近い。
あの日赤い主将章を巻きミラクル弾を放ったネッツァーは’22年に現役を引退してもスタッフとしてクラブに残り、B級ライセンスを取得した現在はコーディネーターと兼任で育成年代の指導にも携わっている。まだ三十代の彼がトップチ-ムを指揮する未来は差程遠くないのかもしれない。〖第十話了〗
◇◇◇◇◇


◆◆◆◆◆
⏹️写真/テキスト:横澤悦孝 ⏹️モデル:葉山知音里