そんなイチローや日本野球は細かい駆け引きが多い。盗塁なんて大き過ぎるくらいだ。
特にノーアウトや1アウトでランナー1塁という場面を想像して欲しい。1塁ランナーはフライアウトだと帰塁しなければいけない。しかし、野球では、「打者のバットにボールが当たったら、ランナーも走る」という“ヒット&ラン”という戦略がある。
この戦略を遂行するためにはランナーの走力はもちろん、「打者がバットにボールを当てる事と地面に叩きつけるようなイメージでバッティングする」技術面が戦略として求められる。打者の自由を制限されるためにアメリカでは好まれないが、組織野球の日本ではこれを多くの選手が遂行できるため、どのチームも1試合の中で何度もこの戦略を採用する場面が見られる。
右打者が多いのは日米共通だが、この“ヒット&ラン”を頻繁に使う日本野球では、右打者が引っ張らずにライト方向に打つ「流し打ち」の技術が重用されるようになった。
そして、ヒット&ランと右打者の流し打ちにより、ライトを守る外野手にも特殊技能が求められるようになった。つまり、「一塁ランナーが三塁まで行くのを阻止する」送球能力だ。イチローはそのコントロール抜群の強肩でランナーをアウトにする“レーザービーム”を持って、ライトというポジションの重要性を高めた外野手でもあるのだ。
現在の野球界では8番打者に、「打率は低いけど長打力抜群で1発がある“恐怖の8番”」を用意したり、ピッチャーを8番にして9番にも「打てる打者」を入れて1番打者に繋ぐ打線の組み方も一般的となった。
このように、通称“ライパチ”は死語となり、8番バッターもライト手もチームの重要な役割を担う選手となっていったのだ。
サイドバックから考える現代サッカー
サッカー界でのサイドバックはどうか?
現在のトップレベルを行くサイドバックの選手はたいてい、高校生以降でFWやサイドアタッカーなどの攻撃的なポジションを担っていた選手がコンバートされた選手が多い。プロになって初めてサイドバックをした選手も多い。逆にサイドバックの選手が他のポジションへとコンバートされたような例はあまり聞かない。
せいぜいリードしたチームが終盤にサイドMFにもサイドバックの選手を投入して“2段重ね”でサイドを封鎖する守備固めをする時ぐらいだろう。バイエルン・ミュンヘンのフィリップ・ラーム(元選手)がボランチにコンバートされた事が注目されたが、サイドバックが他のポジションへコンバートされたからこそ珍しがられたとも言える。もっともレアル・マドリーのウェールズ代表FWギャレス・ベイルがサイドバックだったのは忘れられているが・・・。
「FWでは使えない」、あるいは「3番手以下のFW」。そんな評価を受けた中でサイドバックにコンバートされた選手も多いはずだ。「FWではダメだが、サイドバックなら」と。まるで8番を打つライトフィルダーのようだが、野球界で“ライパチ”が死語になったような状況が、サッカー界のサイドバックにも起きている。
「FWではダメだが、サイドバックなら」ではなく、「この能力はサイドバックでこそ活きる!」と、積極的なコンバートが増えたと感じられるし、サイドバックにも色んなタイプの選手が増えた。もともと別のポジションをしていた選手が多いのだから、様々なプレースタイルを持つサイドバックが多くなるのは自然な流れだろう。他のポジションの選手よりも期待を受けていなかったからか?自由に進化できた例も多いかもしれない。
もう「攻撃的なサイドバック」と表現するだけでは、そのサイドバックの特徴を紹介しきれない。高いポジションをとってドリブル突破やスペースへの走り込みでガンガン突破を狙う選手なのか?