イチローは野球を変えたと思う。
アメリカ・メジャーリーグ・ベースボールで今季も日米通算26年目のシーズンを戦った、世界の“ICHIRO”(今季マイアミ・マーリンズ、現在はフリー・エージェント)のことだ。サッカーの記事を書いているのに野球の話をするのはどうか?と思うが、ちょっと聞いて欲しい。
野球界には“ライパチ”という死語がある。「ライトを守る8番バッター」の略なのだが、「先発オーダーには入れるけど、打つ事も守る事も期待していない」という皮肉が込められていた。
だからこそ、「実績が不十分ながら将来性のある若手外野手に経験を積ませるため」、あるいは、「全盛期を過ぎた経験豊富なベテランにもう一花咲かせる」という意味合いで「ライパチ」を任された選手も多かっただろう。
当時の野球界では花形はあくまで内野手。外野手は「内野を守れない」という指摘を受けたかのように評価が低く、次第に守備範囲が広いセンターは評価され始めたものの、右打者が多いために打球がよく飛んでくるレフトよりも、ライトは不当に低く評価されていた。
この傾向は「何が何でも打球は引っ張るんだ」というようなパワー重視のアメリカ野球で顕著であり、それがためにライトを守る選手の評価が低かった。
「スモール・ベースボール」の重要性
しかし、2001年にイチローが海を渡り、シアトル・マリナーズで初年度から3割5分の高打率で首位打者となってリーグMVPも獲得すると、その考えに変化が現れた。
注目されたのは打率の高さはもちろんだが、それ以上に内野安打の多さやバントヒット、盗塁を含めた走塁、そしてライトというポジションの重要性だった。
マリナーズ打線の1番を打つイチローは首位打者に輝くほど高打率で出塁し、56盗塁で盗塁王にも輝いた。イチローが出塁すると相手のピッチャーの集中力も落ちた。盗塁されるとヒット1本で失点してしまうし、一塁ランナーのイチローがシングルヒットで三塁まで行く可能性が高いからだ。
イチローの内野安打やセーフティーバント、盗塁を含めた走塁とは、「常に1つ先の塁を狙う」プレーだった。そして、それらはホームランばかり狙うアメリカ野球では「スモール・ベースボール」と称された。
ワールド・クラシック・ベースボール(WBC)の第1,2回大会を日本が連覇した事もあるが、「スモール・ベースボール」の重要性はアメリカでも高く評価され、次第に広まっていった。
ヒット&ランへの対抗→レーザービームの必要性