それでも結果だけ見ても批判されるべきは、初年度の3冠以降は尻すぼみの印象が濃い事だ。昨季はリーガとコパを制して国内の主要タイトル2冠としたが、これはどちらかと言えばレアル・マドリーにシーズン折り返し地点で監督交代が発生したように、ライバルが自滅した意味合いの方が大きい。
そもそも2年前の3冠時も、シーズン折り返し時点を過ぎても成績が安定せず。さらに「アノエタの夜事件」でのリオネル・メッシとの衝突もあって、ルチョはシーズンを通して解任の噂が絶えなかった。なにしろ3冠を獲得しても解任や辞任・退任との言葉が飛び、1シーズンで去る事が濃厚な報道が強かったのだから。
そうなった理由はメッシとの確執や、現役時代の盟友でもあった元・GKのアンド二・スビサレッタSDの解任などもあった。そして、それ以上にクラブの哲学である下部組織出身選手をチームの軸にした上で、下部組織から一貫して徹底されている哲学に沿ったスタイルを具現できていなかったことだ。
シャビ・エルナンデス(現・アル・サッド/カタール)やペドロ・ロドリゲス(現・チェルシー/イタリア)のような生え抜き選手がレギュラーを外されて現在はチームを離れ、イヴァン・ラキティッチやルイス・スアレスのような他クラブで完成された“外様”がチームの軸となった。
何よりも、それまではシャビやアンドレス・イニエスタ、セルヒオ・ブスケスの3人のMF陣を軸として披露する華麗なパスワークがチームの代名詞だったが、それが今ではメッシ&スアレス&ネイマールの南米3カ国のエースFWによる3トップ=“MSN”へと変わった。「バルセロナ=MFのサッカー」で、「レアル・マドリー=FWのサッカー」が2強の違いだったが、どうにも近年の2強はかなり似たチームとなっている。
2009年にグアルディオラ監督の下で華麗なパスサッカーを披露して3冠を達成したバルセロナ。しかし、シャビやイニエスタの加齢や他チームからの研究からの対策にも限界が生じ、MSNの個人技や即興によるアイデアを最大限引き出すスタイルが有効だと考えたのだろう。いわば、ルチョがチームを蘇生した術は、延命措置だったのかもしれない。
ネイマール欠場で、ルーチョの決断はバルサの哲学か?
2015年にルチョの下で3冠を達成した直後、バルセロナの会長選挙に勝利して暫定会長から正式に就任したジョゼップ・マリア・バルトメウ会長は、「我々には3冠と3トップがある」と誇った。
クラブのトップが伝統の下部組織やパスサッカーよりも、結果や大金で獲得して来たスター選手を重視した発言をした事もあり、バルセロナも徐々に変化していくべきなのかもしれない。
ルチョは現役時代にバルセロナ加入前はレアル・マドリーにも在籍していた選手で、ライバルの血も流れている。バルセロナでは主にウイングや攻撃的なMFとしてプレーしたが、豊富な運動量とアグレッシブさを活かしたサイドバックとしても起用され、どのポジションで出場しても得点を量産する貪欲なポイントゲッターであり、ファイターだった。現在、MFながら右SBとして重用するセルジ・ロベルトへ向ける視線は、過去の自分を投影しているのかもしれない。
バルセロナのBチームの監督を歴任し、イタリアのASローマとスペインのセルタでトップチームの監督時代は、バルセロナのようなパスサッカーを植え付けようとする哲学重視型の指揮官だった。だからこそ、バルセロナのトップチームの監督にも招聘されたのだ。
今回のクラシコではネイマールが出場停止となって欠場する。今季はメッシ以上に調子が良いので、バルセロナからすると大きな痛手かもしれない。MSNの中でも最もドリブルや個人技を重視するネイマールの不在は、バルセロナの哲学とルーチョの戦略や決断に大きな変化を加えるだろう。それがプラスに転じる可能性もあるという意味も含めて。
すでに今季限りでの退任を発表しているルーチョにとってはCLも敗退したので、最後のクラシコとなる。果たしてルーチョのしたかったサッカーとはどんなモノだったのか?それが明確に出る舞台となるのではないだろうか?
左ウイングの人選、セルジ・ロベルトの役割。この2つが勝敗の大きな鍵を握っている。